955年6月1日付
【政治】第4回大統領・議会選挙実施 初の無所属大統領誕生
<イグナイト・タイムズ>
第4回選挙は955年5月、第3回議会とマリオ・バルバリッチ大統領の任期満了に伴い実施された。
「強硬な社会主義者」との評のあるバルバリッチ大統領は続投の意向を示していたが、選挙前に行われた社会民主党の予備選挙においては右派の反目に遭い、無所属のバーバラ・オリーン法務長官に敗れた。しかしバルバリッチ大統領はこの予備選挙の結果に関わらず出馬することを表明し、社会民主党は分裂選挙に突入することとなった。オリーン候補は旧セニオリス自由党の分裂時に無所属となっていた元地方議員だったが、市場原理主義と社会主義双方を批判する姿勢で大統領を越える人気を集めていた。
社会民主党及びセニオリス共産党が過半数に迫るという中で、選挙戦は「資本主義体制を守る」が事実上テーマとなった。進歩自由党は当初の「政権奪還」の方針を転換し、社会主義者の政権からの排除を狙ってオリーン候補を推薦した。自由民主党からは自由派のアイラ・ベキッチ氏が第3回選挙に引き続いて再挑戦し、大きな政府の弊害を訴えた。保守党は「青き八重歯」との統一候補擁立に失敗し、党内の統一候補として王権派のマクシム・ショラ氏が立候補し、バルバリッチ大統領を念頭に社会主義者を「賊」などに例えその姿勢を批判した。
こうして構図は前回に続く「左派VS中道左派VS中道右派VS右派」の四つ巴の構図となったわけであるが、一方で選挙戦開始当初の世論調査ではオリーン候補がずば抜けた構図が示されていた。支持政党別の調査でも中道派の票を手堅くまとめて左派にも食い込もうという勢いが示され、もはやオリーン候補の当選は揺るぎないものと見なされていた。
しかし、第3回選挙と同様に選挙戦では波乱が起こることとなった。バルバリッチ候補は12年間における大統領としての内政・外交に跨ぐ実績を猛アピールし、自らが信念とする「社会主義思想」の正当化を図った。業績に自信を見せた大統領は前回選挙をも遥かに上回る程のペースで各地を回り、議会選挙の候補者とも積極的に連携して左派票そのものの底上げを狙ったのである。
一方オリーン候補は積極的なテレビ出演などで個人のカリスマ的人気の維持を保つ戦術を取っていた。無所属であった彼女は議会候補者との連席演説に挑むことも出来なかったため、個人の人気に頼る他無かったのである。
選挙結果はこの2候補の戦術の効果が色濃く表れたものであった。第4回大統領選挙はバーバラ・オリーン氏が当選し、初の無所属の大統領誕生となった。社会民主党右派及び進歩自由党の推薦を受けていた彼女は、一方でそれらの2派の組織戦に頼ること無く個人の人気を保ち続け選挙戦を制することとなった。バルバリッチ候補は前回に引き続き壮絶な追い上げを見せたが、オリーン候補のカリスマ的人気の前に及ばなかった。
一方議会選挙では、バルバリッチ候補が取っていた左派票の底上げ戦術が功を奏し、社会民主党が23議席増の107議席、セニオリス共産党が12議席増の27議席を獲得し、第4回議会の過半を左派が占める共和国史上類を見ない左派的議会が誕生した。
オリーン候補を推薦していた2派は辛酸を嘗めた。社会民主党右派はバルバリッチ候補による左派票底上げの勢いを受けることが出来ずに8議席減の41議席、進歩自由党はオリーン候補の人気が議会選挙に結びつかず、更に社民右派との間に抱えた軋轢が祟って31議席減の17議席という惨敗となった。
この結果、社会民主党は左派が右派の議席数を初めて上回った。そしてオリーン新大統領は、選挙戦で推薦を受けていた社民右派と進歩自由党の支援を期待できず、無所属として基盤が薄い欠点だけを抱えて国政に漕ぎ出すこととなった。
バルバリッチ候補は敗戦の弁として「我々の素晴らしい旅はまだ始まったばかりだ」と語り、支持者を奮い立たせた。社会民主党の主導権を握った左派は「大統領選での軋轢は全て水に流す」と対立候補を推薦していた右派との和解を強調したが、ある中堅議員は「”バルバリッチ主義”は継承されている」とオリーン新大統領との路線の相違を見せた。
オリーン新大統領は就任会見で「前政権の実績は認めるべきは認め、正すべきを正す」と批判のトーンを下げた。共和国は初の無所属の大統領を迎えることとなったが、議会での最多数派となった社民左派の影響力は無視できないものと思われ、反社会主義を掲げた野党勢力にとっての”悪夢”は当面続きそうである。
【政治】独自色か?レームダックか? オリーン政権を読み解く
<新セニオリス通信>
第4回選挙では大統領選を無所属のバーバラ・オリーン候補が制したが、議会選ではこれまでバルバリッチ政権を支えてきた社会民主党左派やセニオリス共産党が伸長する結果となった。市場原理主義と社会主義双方の批判者として知られるオリーン新大統領の門出は、選挙戦で推薦をしていた社民右派や進歩自由党の支援をもはや期待できない状態から始まることとなっており、議会で66議席を握る社民左派の影響力はもはや無視できないものと見なされている。
しかし就任会見では批判のトーンそのものは抑えられたと言えど、社会主義体制について問われると「改憲が必要だろうが、私は絶対に署名しない」として明白に拒否する姿勢を示すなど、自由社会を擁護する従前の姿勢も健在だった。これは”社会主義改憲論”が漏れ聞こえ始める社民左派とは一線を画するものであり、新大統領と社会民主党との距離感が注目されていた。最終的に承認された大統領補佐団の顔ぶれは以下である。
役職 | 名前 | 所属 | |
---|---|---|---|
副大統領 | アンドレイ・ラチャン | 社会民主党(左派) | |
外務長官 | アナ・クラリツ | 社会民主党(左派) | 留任 |
防衛長官 | ミレンコ・ヴライサヴリェヴィッチ | 無所属 | |
法務長官 | アンテ・マテシャ | 無所属 | |
財務長官 | トミスラヴ・ヴチュコヴィッチ | 社会民主党(左派) | |
内務長官 | ナターシャ・ブラジェビッチ | 無所属 | |
国土開発長官 | ルカ・ステピナツ | 進歩自由党 | |
教育科学長官 | ゴラン・ラニロヴィッチ | 社会民主党(右派) | 留任 |
経済産業長官 | アンドリア・ヴライサヴリェヴィッチ | 社会民主党(左派) | 留任 |
資源・エネルギー長官 | ペトラ・ウーシッチ | 社会民主党(左派) | 留任 |
運輸衛生長官 | マーヤ・ロビッチ | 進歩自由党 | |
農務環境長官 | ミラ・イェリッチ | 社会民主党(左派) | |
労働長官 | ミルコ・ヴライサヴリェヴィッチ | 社会民主党(左派) | |
厚生長官 | ミラ・パヴロヴィッチ | 無所属 | 留任 |
行政改革長官 | ドゥブラフカ・マタチッチ | 無所属 | 留任 |
人事は社会民主党、進歩自由党の2党によって承認された。前政権と比較するとセニオリス共産党所属の長官の任命は回避されてはいるが、全体的には社会民主党左派からの任命が多い左派的な政権となっている。
特定党派に属さない大統領独自の政策を実現させるためか、無所属からの新規任命が3名居る。
防衛長官に任命されたのはミレンコ・ヴライサヴリェヴィッチ氏であり、ドナ・メシッチ前防衛長官の人工衛星打ち上げを支えた重要な技術メンバーの一人として知られる。元来政治とは無縁ではあったが、メシッチ前長官の引退を受け、人工衛星の維持管理などを支えるため抜擢された格好だ。
大統領の前職であった法務長官に任命されたのはアンテ・マテシャ氏だ。大統領が地方議員の時代から秘書あるいは同僚議員として支えてきた大統領の右腕的存在として知られ、就任会見では大統領が法務長官時代に掲げていた開放的社会政策の方針の継承を表明した。
内務長官にはナターシャ・ブラジェビッチ氏が就任した。共和国警察に勤めた経験を持ち、地方議員時代にはデモ規制条例に対する反対の急先鋒となったことで知られた。治安行政などを担う内務長官への抜擢は、前政権と同じく開放的社会政策を実施していくとのメッセージと受け止められる。厚生長官、行政改革長官の2名も続投している。
今回の人事ではセニオリス共産党からの任命こそ回避されたが、社会民主党左派からの任命は副大統領を含めるとバルバリッチ政権の4名から7名となり、社会主義の影響力はむしろ強まっているというのが進歩自由党のある議員の見立てだ。専門家は「社民左派は市場原理主義を嫌う大統領と経済政策面で協調することを選択した」と分析しており、自由民主党などの野党勢力は「羊の皮をかぶった狼」として強い警戒感を示している。
2期目を志していたバルバリッチ前大統領を破って誕生した初の無所属の大統領は、その無所属との肩書ながらも社会民主党左派からの影響下にあることを否定できない門出を迎えることとなった。オリーン政権はバルバリッチ前政権とは異なる独自色を打ち出す事ができるのか、はたまた社民左派に牛耳られたレームダックに終わるのか。新大統領の手腕が試されている。
その他
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