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民主前進党改憲草案、過半数の支持を集めるも否決

1006年2月23日付〈中央通信〉

 22日、民主前進党と連合党が共同で提出した共和国憲法の改憲草案が共和国議会下院における採決にかけられ、賛成348、反対252で改憲発議に必要な共和国議会の3分の2(400票)の賛成が得られず否決された。委員会社会主義を掲げる人民党・革新党の反対は予想されていたが、75議席を有する南の風が反対に回ったことで改憲発議は不成立の結果に終わることになった。1002年の大統領選の際に改憲を公約していたトケン・コーサイト大統領は投票後に記者団に対して「今回の投票において我々が成し遂げることができなかったのは認めざるを得ないが、今後も改憲を目指していく考えに変わりはない」と表明、1010年に行われる共和国議会選挙の後に改憲派が3分の2を確保することができれば草案を再提出すると明らかにした。
 民主前進党の改憲草案は、共和国の「生産手段の労働者による所有」を基盤とした自主管理社会主義体制自体は維持しつつ、共和国経済を事実上統括している9つの委員会の権限を大幅に弱体化させることを企図したものだった。改憲草案においては自主管理組織(注:資本主義世界における企業)は委員会から独立し、委員会はあくまで「職域自治」のための機関と位置付けられることになっていた。委員会は直接的に傘下の自主管理組織を指揮統制することができなくなるだけではなく、行政中枢に対する影響力も大きく削減されるとされており、行政府の新設される長である首相(議会によって任命され、大統領によって承認される。また、共和国議会の解散権を有する)が委員会の上層部を解体する形で新設される省庁の大臣を任免し、国家行政はこの省庁が担うことが想定されていた。また、中央処理委員会が果たしている司法機能は完全に新設され立法府・行政府双方から独立した組織である裁判所が担うことになるとしており、旧共和国時代から一貫して行政府の一部とみなされてきた司法の独立が明確化されている点も現行憲法からの大きな修正点であった。
 「委員会の解体」を目的とした今回の改憲草案は委員会社会主義勢力から猛反発を受けた。人民党は民主前進党草案が発表された直後から反対する意思を明らかにし、党内の非委員会社会主義系の議員が賛成を検討したとされる革新党も「党が賛成するなら離党する」として強行に反対した委員会社会主義系の議員グループに配慮して最終的には反対を決めた。改憲草案が採択されるか否かは南の風の投票態度次第となったが、共和国の非社会主義化を究極の目標としていると事実上みなされている同党は、あくまで社会主義の枠内での制度変更でしかないとして改憲草案に反対することを決定した。南の風のホレイショ・スワン下院議員は投票後の議会での発言で「草案は我々の求めてきた自由への道にはほど遠く、むしろ逆行するもの」と述べ、自主管理社会主義の基盤である「自主管理組織の労働者所有」自体が削除されるような草案でなければ支持できないことを明らかにした。南の風内の自由主義系の議員の中には一種の通過点として、あるいはガーネット州の自治権を交渉材料に、この改憲草案を支持すべきとの声もあったが、党本部は最終的には委員会の影響力を利用しながら自主管理組織の事実上の支配権を握っている「経営者」層ー南の風の主要支持層ーの立場を弱めかねないとして反対の立場を選んだとされる。連合党内の一部の自由主義系議員からは「既得権益のために国民の支持しない現体制の維持を支持するのは自由主義者としての裏切り行為ではないか」との批判も上がっているが、いずれにせよ南の風は改憲草案に反対し、改憲草案の否決に貢献した形となった。

委員会社会主義系4委員長、「委員会の権限を変更する改憲は委員会の支持なければ無効」声明

1006年2月25日付〈中央通信〉

 24日、「委員会社会主義系」の委員長として知られるケネト・カーネリアン中央処理委員長、ライア・モリオン軍部委員長、ギテン・コーサイト技術委員長、カラン・クリソプレーズ外交委員長の4人が共同で声明を発表、民主前進党・連合党が提出した改憲草案は「委員会の権限を著しく侵害するもの」として、「このような改憲草案は各委員会が支持しない限り無効」であるとした。声明によれば、共和国議会を含む中央政府の権限はあくまで委員会から付託されたものであり、委員会の権利が本質的に先立つものである以上中央政府が委員会の地位を委員会自身の支持なくして変更するようなことは認められないとする。ケネト中央処理委員長は声明発表に合わせた記者会見で「連邦国家において連邦政府の権限を定めた憲法が連邦構成体の支持なくして変更できないように、我が国の憲法は委員会の支持なくして変更することはできない」と述べた。既に改憲草案は否決されているが、ギテン技術委員長は、今回のような内容の改憲草案がもし可決されれば「委員会が支持するかどうか決定するまで国民投票を差し止めるべきだ」として、そのために法的措置を取ることもあると説明している。
 4委員長の声明に対する他の委員長の反応はさまざまである。エルネ・モスアゲート生産搬送配給委員長は直ちに4委員長の声明は認められず、もし改憲草案が可決されれば各委員会は国民投票の迅速な実施に協力べきだとし、過半数の国民が改憲を支持したなら改憲は「それ以外の条件を必要とせず」発効するとした。今回の改憲に反対した南の風の支持を受けるエドムンド・カルデラ・アバスカル動力委員長も「委員会が国民投票をブロックできると考えるなら、それは間違いだ」と明言、改憲が発議されたら直ちに国民投票が行われるとした。一方、民主前進党草案を支持するとしていたシーク・ウェストカーネリアン内務公安委員長は「国民投票を巡って法的措置が取られたなら我々は判決に従うべきだ」と述べるにとどまり、アルネ・ムトロライト住環境委員長とナカノ・クリストバライト研究設計委員長はこの件についてコメントすることを拒否した。
 トケン・コーサイト大統領は「改憲草案が発議されたならばそれは国民投票にかけられなければならない」として4委員長の発言を牽制したが、戸籍を管理しているのは委員会である以上委員会が協力しないなら国民投票の実施は難しく、これほど多くの委員長が改憲に対して抵抗する姿勢を示したことで、仮に1010年選挙後に民主前進党と連合党が合わせて議会の3分の2を確保できたとしても改憲草案の国民投票が予定通り実施できるかは疑わしくなった。

【社説】自由主義者たちの黄昏

 国内のいわゆる「自由主義者」たちの民主前進党の提案した改憲に対する態度は分裂した。連合党内の自由主義派閥は党首脳部の決定に従って賛成票を投じたが、南の風の自由主義者は反対を選んだ。それぞれの内部には「自由主義者」としての結束を示すために共同して賛成あるいは反対を投じるべきだとする考え方もあったが、結局次回選挙での党組織の支援を捨ててまでそのようなことをする意思は持ち得なかったようだ。この結果、自由主義者の究極的な目標とされる共和国の「非社会主義化」は遠のいたと言わざるを得ないだろう。
 南の風は「自由への道」のために今回の改憲草案に対して反対したと表向きは表明している。しかし、それが一から十まで南の風の態度を決定したかは疑わしい。民主前進党の改憲草案は自主管理社会主義の国是を維持し、企業の資本家による所有が認められないという点で南の風の求めてきた体制変革とは異なり、むしろ労働者の自主管理組織への発言権を強化することでその利益と相反するものであった。民主前進党改憲草案は委員会社会主義への挑戦というだけではなく「委員会による監督」を利用しながらガーネット州において独占的な経済支配を築いてきた「南の風」―ここでは国政政党ではなく組織としての「南の風」―の既得権益に対する攻撃でもあり、南の風としては賛成票を与えるわけにはいかなかったというのが本音であろう。長年共和国の「自由化」の急先鋒とみなされてきた南の風は利益のために逆に委員会主義者と手を結んだのである。
 一方、連合党内の自由主義者もまた党の意思に従い、こちらは改憲草案に賛成票を投じた。自由主義者は連合党内の少数派に甘んじており、今回の改憲草案においてもサンディカリスト系勢力の主導する改憲案に対した影響は与えられなかった。自由主義派の間では共和国の「自由化」のためにはこの改憲では不十分だという指摘もあり、離党して南の風に合流する(そして、南の風を本当の意味で「自由主義者の党」にしてしまう)という案、南の風の自由主義派と合流して「自由党」とでも称される新たな政党を作る案も挙げられていたようだが、最終的にはどちらも採用されずに連合党の枠組みを維持することが選ばれた。
 こうして、両党の自由主義者は改憲草案に対して異なる立場を取り、どちらも自らの所属する政党の中で活動を続けていくことになった。今回の騒動を通じて「超党派の自由主義者による団結」が一種の理想論にすぎず、現実には「自由主義者」が一つにまとまることも難しいことが明らかになったことは、「共和国の非社会主義化」という目標自体が絵に描いた餅に過ぎないことをあぶり出したと言えよう。

【国際】サンシャ鉱山転換協定成立。外交委員長「国際的な銀需給の改善に期待する」
【政治】4委員長声明の背景には委員会社会主義勢力の団結か。「人革両党は事実上一体」との声も
【経済】建材公開入札、応募者現れず。生産搬送配給委員長「近年は新興国の建材需要が落ち着いている」

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