共和国宮殿:閣僚評議会議長官邸のこと。
主要閣僚や官僚らが頻繁に出入りしている。
喫煙所:タバコを吸って良いところ。
喫煙大国ヴェールヌイでも、宮殿は全面喫煙可とはいかないようで、首相執務室や閣僚待機室、レセプション会場以外では基本禁煙。
報告にやってきた官僚たちは、裏庭の隅に設けられた喫煙所に集いがち。
「首相任期ってさぁ」
「うん」
「最長15年だったよなぁ」
「うん、そうだ」
「1期5年、3選縛りってやつ」
「うん、普通だよ、普通」
「23年経ってるんだけど」
「うん」
「え、これはいいわけ?」
「いいんだよ」
「なんで」
「なんでって、そりゃ15年っていえば長いようで短いもんでさ」
「ちがう、法律だよ、法律」
「法律は法律、設定は設定、現実は現実だよ」
「そういうもんか」
「そういうもんだよ」
「ちゃんと選挙をやっている国、あれはどういうわけだ」
「うちもちゃんとやってるじゃないか」
「いやだから23年経ってるんだけど」
「法律は法律、設定は設定、現実は現実だよ」
「なんかこわいよ」
「100年間記憶がなかったほうがこわいんだから、些細なことはいいんだよ」
「同志は達観してるな」
「議長同志の機嫌はどうだった?」
「よかったよ、よかった」
「そうか、君のところはいいな」
「そうでもない、そろそろ失業率で叱責をうけるんじゃないかと、大臣は気が気じゃない」
「石油の時は正直笑ったよ、天国に飛んで、ロムレーから帰ってきてもまだ一つも掘れていなかったんだから」
「他所のことを笑っていられるほど、そっちは余裕があるのか」
「さぁ、どうだろう」
「ふーん・・・同志、ひとつ聞いても?」
「うん、なんだ」
「国連の」
「それはだめだ、だめ」
「条約機構の」
「それもだめだ、だめ」
「オブシ・・」
「全部おんなじだろう!」
「怒るなよ、悪かったよ」
「聞くならもっとあるだろう、ほら、石動とか」
「い・・しど・・う?」
「わざとやってるだろ」
「うん、けど、俺は石動は嫌いじゃないんだ」
「そうなのか」
「祖父が行ったことがある、衛兵連隊に付いて、政治局員だったから」
「それで」
「良い話をたくさん聞いた」
「そうか、良い時代だったんだよ」
「そうかもしれない、うん、そうだな」
「時代といえば、ヴェニス大使館、あれ、行ってみたか?」
「行った行った」
「どんなだ?」
「電話ボックスみたいな箱にさ、女の子が映ってる、とても流暢なヴェールヌイ語で応えてくれるんだ、めっちゃかわいい」
「へぇ、いいなぁ、今度行ってみよう」
「それがもうだめだ」
「どうして」
「用もないのに行くやつが多すぎてな、今は門の前で人民警察に追い返される」
「かわいいといえば、天国のさ」
「ロシジュアじゃないのか」
「違う、天国、天国のレイラ・ローレライ議長、あれはかわいい」
「そうかな」
「そうだよ、おまけに不老不死だ」
「死んだと書かなければみんな生きてる世の中だよ、なんだっけか、ストリーダの首相だか大統領だかもそんなだった」
「あーいうのじゃなくてさ、議長同志はご利益があるって信じてるよ、俺もそうおもう、あの周りだけ空気が澄んでる」
「へぇ、じゃあその天国に輸血されてた共和国は安泰だな」
「・・・お前はつまらないやつだな」
「俺はアンリエット派だからねー」
「まじかよ」
「なんだ」
「ポポーヴァちゃんじゃないのか」
「バカにしているだろう」
「多少は」
「けれどガトーヴィチは落ち着かないな」
「彼らは相変わらずだろう、見たままだよ」
「そうだろうか?」
「そういうことでいいんだよ、大事無いしさ」
「そうであってほしい、親戚がいるんだよ」
「へぇ、めずらしい、どうして」
「民主帝国時代の移民で、二世か三世だけど、家は交流がある、帰りたがってるんだ」
「あまりその話はしないほうがいい、それにきっと帰ってこないほうが幸せだよ」
「すまない」
「共和国の役人は常に現実直視がモットーだろう(タバコをもみ消して)じゃ、自分は省に戻るから、Слава в Чистый социализм」
「Слава в Чистый социализм、おつかれさん・・・(ため息をつくように大きく煙を吐き出す)」
Слава в Чистый социализм = 純粋社会主義に栄光あれ/純粋社会主義万歳