1177年1月1日付〈中央通信〉
エント・アベンチュリン生産搬送配給委員長は、新年に合わせて談話を発表し、超越連盟の意思決定への関与を終了すると表明した。超越連盟は代表者を置いていないが、「中道、平等、地域」の三原則を含む超越綱領の採択によって発足して以降、エント生産搬送配給委員長が指導的地位を有していたことは明らかであり、その事実上の「代表からの退任表明」であると言える。
超越連盟は1162年3月27日に円環派・角錐派・非評議会派の議員282人が「超越綱領」を採択することで発足したが、発足にあたって「社会主義を排除した」とみられたことによってサンディカリスト勢力が参加せず、共和国議会内の第一勢力ではあれど過半数を握ることができない波乱の出港を余儀なくされた。さらに、1171年後半にトード・アゲート住環境委員長(当時)が拘束され、住環境委員会がサンディカリスト勢力に制圧される形となったために勢力を失い、現時点では左派主導の改憲の発議をかろうじて阻止できる215議席を確保するに過ぎない。このような勢力の減退について、エント生産搬送配給委員長の掲げる「三原則」が原因であるという指摘は早い段階から行われてきた。社会主義を明示的に排除する形となったことはサンディカリスト勢力の離反と社会主義評議会主流派との結託を招き、一方で中道主義や平等主義は角錐派や自由主義者といった超越連盟内部の少数派による疑念を生む結果となった。こうして発生し、1171年末の住環境委員会選出共和国議会議員選挙以来ますます大きくなった「エント降ろし」の声にとうとう抗い切れなくなった形であると言える。
今後の超越連盟の主導権は連盟の議会内の代表であるティーナ・ユーファストーン共和国議会議員を中心とした「部屋の二つある家」派に移ると見られている。同派は長らく特定の原則や綱領に基づいた連盟の運営に反対し、連盟内の各派が自らのイデオロギーを自由に掲げることを容認すべきであるという立場をとることで連盟内の反エント派からの支持を集めてきた。エントの「原則論」が否定される形となった以上、「部屋の二つある家」が支持を集めることは当然の情勢であろう。一方で、この体制改革が超越連盟の団結と統合を損ないかねないという懸念も存在している。実態としての勢力減退の原因を作った「三原則」の堅持を主張する声は弱まっているが、個々の政治勢力が自らのイデオロギーを掲げることは控え、「超越主義」自体を受け入れるべきであるという主張がいわゆる「未来主義派」を中心に行われているようである。
超越連盟は1180年末に向けて再度総選挙要求決議案の作成を目指しているようである。可決にはサンディカリスト連合の支持が不可欠である以上、彼らの支持を得られるような新たな「超越」の枠組みの提示に向けた議論が今後広がっていくとみられる。
内務公安委員長、瀬首相の発言に懸念表明
12月30日、1176年内最後の取材に応じたクルネ・カーネリアン内務公安委員長は、9月に行われたとされるセニオリス連邦ミア・タイチェヴィチ首相の発言について懸念を含んだ意見を表明した。本来外交に関わる立場ではない内務公安委員長が他国首脳の発言について言及することは極めて異例であり、タイチェヴィチ首相の発言中に1171年のトード・アゲート前住環境委員長の拘束を暗黙に批判するような表現があったことを受けてのものとみられている。
クルネ内務公安委員長は、タイチェヴィチ首相が「超越連盟に近しいとされた人物が実に政治的な動機で拘束されたことが報じられた」と言及し、社会主義評議会を中心とした政治的勢力を「超越の敵」と呼んだことに触れ、これがトード前住環境委員長についての言及であるという前提の下での発言であることを断った上で以下のように述べた。
「『政治的動機』というのは、一般的に法的正当性とは異なる理由により、正義を捻じ曲げて行った行動に対して貼られるレッテルであり、一国の首脳であるところのタイチェヴィチ首相が他国の内政事情について言及する際に使用する語彙としては軽率なものであると言わざるを得ない。トード前住環境委員長や、その他の「反社会主義的」勢力は、「反社会主義的」であることによって共和国の法に触れたのであって、そのような人物が刑法犯となることは決して『政治的』なものではなく、純粋に我が国における法と正義に基づいた帰結である。タイチェヴィチ首相は我々社会主義者に対して「超越の敵」というレッテルを貼ることで超越主義の反社会主義的勢力からの評価を買おうとしているが、そのような言動こそがよっぽど『政治的動機』に基づいたものではないだろうか。」
最大の食料輸入相手国であり、一般に共和国との関係は良好であると認識されているセニオリス連邦の首脳が、共和国の社会主義体制やその支持勢力に対して「敵」という表現を用いたことについては国内世論にも衝撃が広がっている。クルネ内務公安委員長が本件について言及したことは、このような動揺を超越連盟などの「反社会主義的勢力」が利用しかねないという危機感の表れであろう。共和国の社会主義体制は、決して公理として設置されているのではなく、我々社会主義世界に生きる市民が不断の努力で守り抜いていかなければならないものなのである。
共和国、KPO理事会に対して公開質問
共和国は、リブル民主共和国と共同で1176年4月27日付のカルーガ条約改正に関して、KPO理事会に対して公開質問を行った。質問は同条約の第三条及び第六条の改正に関するものであり、外交委員会は公開質問状の発出理由について「一部の条項・語句の解釈が不確定な状態にあることは外交上の不安定性を生じさせかねないリスクがあると判断した」と説明した。
国際社会では公開質問状の発出自体を一種の外交的攻撃であると捉える向きもある。トータエ社会主義人民共和国政府がルクスマグナ共和合衆皇国からの質問状発出を受けて「武力行使しないよう求めていた」ことを後日公表したことなどを踏まえ、国内の有識者からは「公開質問状発出」という行為自体が一種の脅迫であると解釈されかねないという指摘もある。このような「外交上のリスク」があることを承知の上で公開質問に踏み切った理由として、ムメイ・トリディマイト外交委員長は「質問はあくまで質問であり、質問を受けて懸念が生じるか生じないかが決まることはあるが、質問自体は懸念ではない」と述べ、公開質問状の発出が外交的圧力と解釈されるべきではないという立場を示した。これに続く「回答いかんでは懸念が生じるということか」という問いに対しては、「懸念が生じないような回答が行われることを期待している」と述べるにとどめ、明確な説明を行わなかった。
国内の国際法学者からは、「『先制的自衛権』という、FUN憲章上に定義されていない語句について明確化を求めたのは学術的な意味でも注目に値する」と歓迎する意見があった一方、「手紙が藪をつついたとして、返ってきたハガキに蛇が書かれていたら明けましておめでとうではすまない」と懸念する声も上がっている。
【社会】「ゆで卵の超越性は茹で時間に依存する」ヘファイストス大学准教授が新説を提唱。砂時計を利用した超越的計時装置の開発が課題と説明。
【政治】モリオン市軍需品製造工場、サンディカリスト連合の「超越派」に大規模な献金。今後の超越主義者間連携への協力期待か。
【国際】ルクスマグナ国内で超越主義政党会が成立。「超越がさらに意味不明になる」国内の超越についての無識者からは歓迎の声。