959年11月28日付
【社会】憲法改正に関わる憲法裁判が決着 大統領代行による署名は「違憲」
<新セニオリス通信>
959年3月、憲法改正にあたって大統領代行の署名が有効であるか争われた裁判において、憲法裁判所は「違憲である」との判断を下した。本裁判は具体的な訴訟事件に基づかない抽象的違憲審査制に基づいた裁判であり、これまでに該当する事例は無いが、今後の憲法議論に影響を及ぼすこととなる。
憲法上、共和国の憲法は大統領の署名及び議会の過半の支持を得た草案が、国民投票で過半の同意を得ることで改正されることとなっている。本裁判はこの”大統領の署名”において大統領代行の署名は認められるか否かが争われたもので、多数意見11、反対意見4によって「違憲」と判決された。多数意見は「大統領代行はその名称が区別されている点から大統領を完全に置換するものとは解釈できない」とした上で、「議会の多数派による任命という大統領の制度上、議会と大統領の二段階の審査を受けるよう求める憲法改正の理念にも反する」とした。
なお5名の裁判官は意見として「憲法改正の条文は行政府及び立法府の二権の審査を条件とすることで慎重な審理を求めていると解釈されるべきで、大統領以外の行政府の長の署名を認めていないと考えることはいささか極端」、「大統領代行は不信任による大統領不在期間において国家元首を務める立場であり、大統領を置換しないと考えることもいささか乱暴である」としたが、「大統領代行は議会の信任により選出された議会と密接に関わった立場であり、その署名により慎重な審理がなされたと解釈されることは憲法改正条文の理念に反する」として「違憲との結論には相違ない」とした。
反対意見は「大統領代行はその名称から大統領の職務を置換するものと解釈されるべき」とし、また「大統領代行による署名を無効と見なすことは、大統領代行期間中における国家の憲法改正権を封じることとなる」として「有効」と主張していた。
憲法学者らはこの判決に関して様々な反応を示した。ダヴォール・ロビッチ教授(ハルクステン大学)は「大統領代行が、その職務上も大統領と異なること、また改正条文が大統領代行期間中を想定していないことを示した歴史的判決」と評価したが、ドゥブラフカ・オスモクロビッチ准教授(ユーダリル大学)は「憲法改正条文を都合よく解釈した好ましからざる判決」として批判した。
また958年5月~960年4月は解散権行使が認められている大統領任期の4,5年目に当たるだけに、政治的な影響が少なくないと見られている。判決を受けたセニオリス共産党のある議員は「人民の民主的意思に基づく革命を闇雲に封じようとする政治的判決だ」と批判、また社会民主党左派出身の同党議会議員団長は「いささか政治的な意図を感じる」と判決の時期に疑問を呈した。大統領府報道官は質問に「当該判決による大統領の議会解散権への影響は無いものと認識している」とかわしたが、進歩自由党のある議員は「共和国の体制は最低6年の保証を得た」と中間選挙への意欲を覗かせている。
今回の判決の今後の共和国憲政にどう影響していくかは未知数だが、現実味を帯びる”社会主義改憲”に反感する勢力はにわかに盛り上がっており、共和国の”政治の季節”が迫っていることを予感させている。
【政治】大統領、大統領令第99号『第4回議会の中間選挙の実施』に署名 961年5月実施へ
<イグナイト・タイムズ>
バーバラ・オリーン大統領は959年11月5日、大統領令第99号『第4回議会の中間選挙の実施』に署名し、961年5月に中間選挙を実施することを宣言した。各党は選挙体制に移り始めている。
大統領が中間選挙実施に打って出るのではないか、という憶測は第4回選挙当初より言われていた。現大統領は元セニオリス自由党で現無所属であるが、選挙当時は社会民主党右派及び進歩自由党の推薦を受けていた。しかし社民右派及び進歩自由党は議会選で共に議席を落とし、代わって台頭したのは社民左派及び共産党の社会主義勢力だった。左派主導となった社会民主党は大統領との連携を選ぶが、左派からの社会主義体制実現の声はこれまでより格段に大きくなっており、社会主義及び市場原理主義の双方に批判的で知られた大統領とは相性が悪いことが暗黙の了解とされていた。それ故に今回の解散劇に「予想されていた通り」と各党の関係者は話していた。
この解散の伏線は憲法裁判所の判決だった。議会最多数派との間に不和を抱える大統領にとって解散は強く臨むものであったが、一方である社会民主党左派幹部が「社会主義体制実現はもう目の前だ」と評するまでの政情は同時に強い不安要素となっていた。社会主義勢力は議会において既に93議席を確保しており、選挙に打って出ることで却って体制転換を早期に呼び寄せてしまう可能性があった。959年3月の「大統領代行による憲法改正草案への署名は違憲」とする憲法裁判所の判決は大統領にとってまさに渡りに船であった。
このように即座の”社会主義革命”の可能性は封じられている今回の選挙ではあるが、選挙の争点はまさに「社会主義体制化の是非」が中心となると言われている。議会第一党の社会民主党では既に社会主義改憲を主張する左派と漸進的改革を臨む右派の対立が顕在化し始めており、中間選挙が波乱の展開となることは間違いない。
【政治】社会民主党左派及び共産党の幹部会談 中間選挙にて協力で一致
<北方セニオリス新聞>
社会民主党左派、セニオリス共産党のそれぞれの幹部らは959年11月24日に議事堂内で会談し、961年5月に予定される第4回議会中間選挙にて互いに協力することで一致した。会談では社会主義体制実現を目指す方向性やオリーン政権の問題点などが確認され、両派が今後社会主義体制の実現を旗印とすることが明確となった。
会談はセニオリス共産党の呼びかけにより実現した。会談に臨んだ左派出身の社会民主党議員団長は「6年後の体制を見据えた会談だった」と語り、「有意義な意見交換が出来た」と感想を述べた。会談では第3回選挙では揶揄に過ぎなかった「人民戦線」の構築についても話し合われた。社会民主党では4月に予定される党大会において党綱領にも触れられると予測されており、共和国の資本主義にとっての大きなターニングポイントとなりそうだ。
これに対し、社会民主党右派のある幹部は「左派は社会民主主義を曲解している」と猛反発した。これまで保たれていた党の左右の協調は崩壊しつつあり、右派のベテラン議員は「社会民主党が共産党と同一視されるのであれば我々は抜けるべきだ」と分党の可能性をも示唆した。一部では第4回選挙で大統領を共に推薦した進歩自由党との連携を模索する動きもあり、来る選挙に向け政情は急速に流動的になり始めている。
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