「砂利のまちハンアマにアスファルトは無理がある」
ハンアマの停車場前に、人目を惹くプラカードを掲げる老人の姿があった。近来、国軍最高司令部による工業強国建設の大号令により、これまでインフラレベル一桁を誇っていたリブル国内各地において、道路、水道、電気の工事が千里馬速度で進められているが、思わぬ軋轢が生じているようだ。
長年にわたり国土が荒廃していたリブルでは、アスファルト道路はまずお目にかかることが稀で、ハンアマが砂利のまちなら、リブルは砂利の国であったが、工業製品を運搬するトラックが道の穴ぼこにハマるようでは非効率極まるため、舗装工事が急ピッチで進められているが、「道路を舗装してはダンゴムシやミミズ、蝉の幼虫が死んでしまう」と、動物愛護団体が路上牛歩の抗議活動を打っていたところ、資材搬入のダンプカー運転手が激高し、活動家17人をひいたりはねたりする、痛ましい事件もあった。
また、リブルの便所は汲み取り式が一般的であるが、農村の縮小により行き場を失ったし尿は、最近導入されたバキュームカーで集めて「衛生船」で沖合に捨てることとなり、これも海水浴客から鼻つまみ。下水道の整備が待たれるが、道路や上水道、電気の整備が優先されるため、しばらくはバキュームカーのお世話になることが続きそうだ。
水道整備にあたっては、これまで井戸を「縄張り」として使用料を巻き上げていたゴロツキが反発し、夜間浄水場に忍び込んで設備を破壊、駆け付けた国軍治安部隊により全員射殺された。
道路を舗装するのも結構だが、まず、われわれ国民に、「人の道」が必要とされているのではないだろうか。