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【特集号】リュシェール議長に聞く共和国外交の将来

【インタヴュー】リュシェール議長に聞く共和国外交の将来

 このインタヴュー特集号は当初想定していた「ロムレー人に外国事情を伝えるための外国指導者へのインタヴュー」という役割を超えて、ロムレー国外においても一定の読者を獲得しつつある。ところで、ロムレー人が海外を理解することも重要ではあるが、海外はロムレーを理解しているのだろうか。穏やかな小国に過ぎないロムレーに対して、「先進国」として過度な期待が寄せられていることは、海外からの過大評価を示しているのではないだろうか。このような懸念を抱くロムレー人は少なくないだろう。
 そこで今回は、ロムレーにおける当代随一の数学者であり、幅広く社会科学一般に深い知見をお持ちのエルネスト・ル・カリエ名誉教授と、リュシェール中央議会議長の対談をお送りする。

ル・カリエ「本日はよろしくお願いします。」
リュシェール「よろしくお願いします。」
ル・カリエ「つい先日ようやくSSPactへの加盟申請がなされました。SSPactに関しては、オブザーバー制度が設置されて以来、共和国もSSPactにオブザーバー加盟すべきであるという意見が根強く存在し、今回やっと、という形になりますが、これに関してはどうですか。」
リュシェール「加盟にはレゴリス帝国の理解を得なければなりませんでした。既存の同盟国との根回しなしに行動すれば、かつてのセニオリス併合危機のように、安全保障環境全体に大きな危険をもたらすでしょうから。あとはSSPact加盟国各国の反応次第ですが…。」
ル・カリエ「その対レゴリス関係ですが、路烈永久同盟は今年で50周年を迎えます。現在もロムレー外交の主軸をなしている永久同盟について、今後どのように展開していくべきでしょうか。」
リュシェール「路烈永久同盟の成立からは50年ですが、路烈安保の成立から278年になります。これほどまでに長く安定した現存する二国間安保体制は現在のフリューゲルでは少ないように思います。それはこれからもそうでしょう。」
ル・カリエ「「路烈同盟終わる時が湖畔共和国の終わりである」…そのような声も聞かれますね。」
リュシェール「現実問題として路烈同盟を終焉させるほどの安全保障環境の地殻変動が共和国そのものに大きな衝撃を与えずにいることは想像しがたいのは事実ですし、逆もまた真でしょう。豊かで自由で平穏なこの共和国を維持すること、これは中央議会議員すべての責務です。経済的繁栄は秩序の安定なしにありえないのですから。」
ル・カリエ「共和国の基幹産業は観光ですが、近年は新興の観光国が増えつつあります。これらにはどう対応すべきとお考えでしょうか。」
リュシェール「国際的な観光業の活性化は悪いことではありませんが、かつて共和国とヴェニス島の間で熾烈な競争が行われ、過当競争となった事態の再発が懸念されます。新興の観光国については、その今後を注視していかなければなりませんね。」
ル・カリエ「水面下で検討の状態が長らく続いているセビーリャ独立についてはどうでしょうか。」
リュシェール「セビーリャ自治政府・セビーリャ議会ともに独立への積極的な動きがみられないのが気がかりなところです。そもそもセビーリャ自治宣言はリアライン条約の制限に対する暫定的な緩和であって、現在の統治委員会=自治政府体制が恒久化されるのは適切ではありません。私はセビーリャに対して適切な権限移譲をさらに推進し、主権国家として国際社会に復帰させるべきであると考えていますが、これについてはセビーリャ人の意志も踏まえて調整する必要はあるとは思います。とはいえ、それがどうあれ内政権についてはもはや制約する理由はないでしょうね。」
ル・カリエ「しかし、セビーリャ自治政府の抱えている極めて官僚主義的な体質は大きな課題を抱えているのではないでしょうか。コーデクス主義的統治は、確かに自治開始から数十年間の劇的な発展を下支えしたかもしれませんが、数学的スキルに優れた人材を過度に行政セクターに囲い込むことになり、社会全体としての人材分配に不均衡をもたらしているように思いますが。」
リュシェール「コーデクス主義については、共和国として公式にこれを採用しているわけではありませんから、少なくともセビーリャ自治政府に対してこれを推奨しているわけではありません。ただ、セビーリャ人の間でコーデクス主義が極めて浸透していることを考えると、一部の中央議会議員が考えているような「セビーリャへの議会主義の徹底によるコーデクス主義からの脱却」というのは、非現実的といわざるを得ません。むしろ、セビーリャ人には自らがコーデクス主義の手本として、自己改革の努力が求められるということを認識してもらうほうが有益かもしれませんね。」
ル・カリエ「ふむ…難しい道になりそうです。先日共和国製の海防戦艦「ヘルヴェティア」の試験導入などが行われたロシジュアについてはどうですか。」
リュシェール「ロシジュアについては、常に「超越」との関連が意識されますが、まずもって平和主義の国で、バランスの取れた分権性が特徴です。それだけでなく、「はらぺこ基金」の導入など、常に新しい制度の試行に余念がない実験国家でもあります。今年で50周年を迎えたバラ園の協定の精神に基づき、これからもロシジュアとは相互に敬意をもって関係を発展させていけるものと考えています。」
ル・カリエ「ミルズについてはどうでしょうか。」
リュシェール「ミルズについては、烈天加国際協調の下、一人当たり所得世界一の極めて安定した体制が実現しているものと考えております。今後はミルズ人の政治的リテラシーを向上させ、自立できるようにすることが望ましいですが、場合によっては後見人をつけての自立となる可能性もあるかもしれませんね。とはいえ、共和国はミルズ問題について積極的に参画するというよりは、あくまでミルズ統治委員会の一員として円滑なミルズ統治を支援する立場に過ぎず、深入りすることはありません。」
ル・カリエ「そろそろ時間のようですね。最後は国際社会へのメッセージで終えるのが通例のようですが、何かありますか。」
リュシェール「国連安保理一般理事国として、共和国は小国ながらも国際協調の実現に尽力してきましたし、これからもそうしていくでしょう。フリューゲルの自由な諸国民の皆様と、これからもよい関係を続けていけることを望んでいます。ありがとうございました。」
ル・カリエ「ありがとうございました」

文責・インタヴュアー:エルネスト・エタン・ル・カリエ。博士(数学)、博士(工学)。アンゼロット記念大学名誉教授、コレージュ・レピュブリック応用数学教授、ロムレー大学言語文化研究科国際関係論専攻博士課程学生。ロムレー・ユニオン銀行保険数理アドバイザリー。著書として『保険数理の確率論的基礎』、『リスクアセスメントの数値計算:理論と実践』のほか、彼の著した教科書『講義ノート確率統計』『講義ノート線形代数学』は「ルカリエ確率統計」「ルカリエ線形代数」として有名。
インタヴュイー:メレーヌ・ヨランド・リュシェール。博士(言語学)、法務博士。ロムレー大学言語文化学部・言語文化研究科で言語学を修める(この際、客員教授として出講していたル・カリエ教授の講義も受講している)。外交局に入局、平和原則条約起草委員会にロムレー代表団の随員として参加。その後、国連設置に備え帝国大学(レゴリス)に国費留学、国際法を修め法務博士を取得し外交局国連部に復帰。ブロンデル初代国連大使が退職後に第二代国連大使に就任。902年に外交局を退職、中央議会議員に選出され、903年に中央議会議長に就任。

【その他ヘッドライン】

  • 【国際】連邦国家のFUN加盟国について国際法学者の間で続く議論。国連当局からは「半主権国でも加盟は可能」との見解、セビーリャの早期国連加盟への道が開かれたか。
  • 【国外】ヘルトジブリール・トルキー、宇宙移住計画を開始。
  • 【国外】ミルズ統治は順調に進んでいるのか?外交局事情筋は「ミルズ人の間に官僚主義的態度が広まりをみせている」と指摘。
  • 【国外】テンク大統領再選。カルセドニー政治学者は「近年のカルセドニー統治機構は複雑化の色合いを強め、「民意」の素朴な反映とはならない。海外からの情勢の把握もより困難になっている。ただしこれらは政治的安定には有益であろう」との見解。
  • 【オピニオン・学術】「超越」の物理学的意義の非一様性と非自明性。超越は社会科学の概念に過ぎないのか。

【世論調査】

  • セビーリャ独立について。「すぐにさせるべき」24%、「中短期的にさせるべき」62%。「独立に向けた世論調査をセビーリャ人に行うべき」87%、「セビーリャ人が独立への意志を持っているのであれば即時独立を認めてもよい」79%。

【広告】

  • バラ園の協定50周年記念ロシジュアンローズ特別公開終了迫る。最後の機会をお見逃しなく。(アンゼロット記念大学付属植物園)
  • まだ天人が軌道上にいるうちに、彼らの新しい家を訪ねてみませんか。短期軌道上滞在旅行はポワンクール宇宙港から、最新のコーデクス技術を導入した安心安全な我が社のシャトルで。(ロムレー・オービタル旅行社)
  • ガトーヴィチ造幣局発行のインターリ君帝即位記念金貨(10万Va)が新規入荷。収集家の中で近年人気沸騰、取引価格も上昇している注目のコインをお見逃しなく。(ル・コント古物店)
  • 『叢書コーデクス諸学』、第3098号「高精度ワンショット学習・ゼロショット学習の手法」好評につきさらに重版。第3122号「疫学と医療統計のフロンティア」、第3125号「表面物理学の工学的応用」発売。(アンゼロット記念大学出版局)

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