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虚構世界のイスタシア 王国の憂鬱

※本記事は貿箱アンソロジーです

連絡欄における「支援不要」と観光者通信欄での返答の怠慢においてRP的に、そして貿箱Slackでの発言によりPL的にも

孤立を深めるイスタシア王国は873年9月、烈天瓦路の4カ国共同声明により事実上”ルッコラ主義”の大部分の放棄を余儀なくされます。
これは、虚構世界におけるイスタシア地域発の報道です。
大きな国是であったルッコラを放棄することを迫られた彼の国の迷い込んだ先とは、一体どこなのでしょうか?


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【国際】王国近海に黒船来たる 四カ国共同声明発せらる

9月24日(873年)、王国近海に三ヶ国合同多国籍艦隊群が来訪し、艦上において烈天瓦路四カ国の共同声明を発した。
声明は王国に「孤立主義政策の撤回」、「貿易の門戸開放」、「外貨導入による鉱山開発」の3点を要求するものであり、王国政府は「前2点については事実誤認であり、外貨受け入れについて前向きに検討する」旨返答した。

突然の来訪に政界には動揺が広がっている。社会自由党の一部からは「僅かでも外貨を入れた時点でルッコラ主義を放棄したも同然」との反発論が噴出し、イスタシア労働党の一部でも「労働者の生活を踏みにじろうとするようなもの」と政権に対する強い追求を求める声が上がった。しかし国民進歩党は「当然の結果 自力での産業育成なるものが机上の空論に過ぎないことは見渡せばすぐにわかることだ」と話すなどルッコラ主義を見直そうという動きも始まっている。与党の社会自由党においても「これはルッコラ主義の放棄ではなく現実路線と自由経済への回帰だ」と政府の対応を擁護する向きがあり、党内で意見の対立が生じている。
ヌルブルク(Nullburg)ではルッコラ主義見直しを支持する市民と現状維持を支持する市民による大規模な衝突が発生した。警察の介入により暴徒化は防がれたが、14人の負傷者が出る騒ぎとなった。

政府は今後議会において四カ国共同声明への具体的対応や外貨受け入れの方針について承認を得る構えだ。

【速報】王家各人、ご失踪される 宮殿関係者は大混乱

本日(873年10月28日)、宮殿にて過ごされていた王家が忽然と姿をお示しにならなくなったことが正式に発表された。失踪されたと考えられるのは女王の他王位継承資格を有する王家構成者ほぼ全員であり、王国は著しい混乱のさなかにある。
王家各人がいつどのように失踪されたかは定かではない。27日の昼頃宮殿内の一室で一人座り込み静かに泣いているところを発見されたノーラ王女殿下(王位継承順位第19位、4歳)は「ママもパパもお部屋を出てからずっといない」と話されているとのことだが、宮殿関係者によるとこの日ノーラ女王の父母にあたるローザリンデ王女殿下、ルーペルト殿下はそれぞれ外出のご予定はなかったとのことであり真相は謎に包まれている。

突然のご失踪に関係各所、そして国民は大混乱に陥っている。一部の宮殿関係者はご失踪に際し「あまりに重い責任を感じ心を閉ざしている」などと遺書を残し集団で服毒自殺を試みているところを保護された。
警察及び軍は慎重に捜索及び捜査を開始したが、宮殿関係者の証言からは一切の手がかりが得られておらず難航するものと思われる。
国民は精神的支柱でもあった女王や王家のご失踪により憔悴状態に陥っている。警察によるとご失踪の発覚から現在までに述べ2万人もの自殺者及び自殺未遂が確認されたとのことである。またアインシュタット(Einstadt)の大型店舗において自爆テロが行われたとの情報もあり、社会の混乱による治安の悪化が始まっている。警察及び軍は厳戒態勢を敷く構えだ。
また一部の市民の間では「ンボベベの呪いによって王家が消滅した」のような怪奇な説まで聞かれた。一切根拠のないこの言説であるが、混乱をきたした社会に浸透していくことは不可避と見られ混乱を更に悪化させている。
政界もまた騒然としている。イスタシア王国憲法では国王は「儀礼的な議会の召集・解散、首相任命などの国王大権」を有するとされるが、国王及び王位継承資格を有する王家の多くが失踪したことによりこれら全ては施行不可能になるのではないかとの解釈が一部から提供され議会の非公式な意見交換は著しく紛糾した。これらをうけレイナ・クロード首相は本日朝に非常事態宣言を行ったが、国家の運営は可能なのか、そしてこれから先どのように正常軌道に戻していくかについては一切の見通しが立つ見込みがない。
政府は「既に確認される社会混乱及び治安悪化の迅速な収束、そして国家を揺るがすこの事件の早期解決を目指す」と話すが見込みは立っておらず、ある政界関係者は「空虚な言葉だ」と投げやりに語った。

【政治】侍従長の摂政就任が決定 議会召集へ

11月5日(873年)、政府は女王の失踪により機能停止状態にあった政情を受け、「国王が施政することが困難である」ことを事由に摂政の任命を決定した。王位継承資格者のほぼ全員が失踪し、残された継承資格者は4歳のノーラ王女殿下のみという非常事態に際し摂政は侍従長のエメリヒ・ホルガー・クラインミヒェル氏が任命された。
摂政殿下は会見において「我が国はとてつもない国難の元にある。しかしその中にあっても女王陛下がお示しになった未来を諦めてはならない。共に国難に立ち向かい、そして未来を築いていこう。」と語った。

しかし移民船団時代より国民の精神的支柱であった女王陛下を失った穴は著しく大きい。右派の一部は公然と摂政殿下への反対を公言しており、ツヴァイバーデン(Zweibaden)では王政支持者らによる摂政反対デモが行われるなど新たな混乱が生まれている。イスタシア総合メンタルセンターによると女王陛下の失踪事件により心を閉ざした患者数は確認されているだけで約11万人に上ったとのことである。町中では「心を閉ざしています」の貼り紙と共に休業する店が散見され、白昼にも関わらず町中は不自然なまでに静まり返っている。

政界も揺らいでいる。政府は四カ国共同声明への対応も含め複数の国内の課題を審議するため、摂政就任後早速臨時議会を召集する方針を明かしている。しかし王国保守党は摂政による議会召集を認めずボイコットすると明言しており、また社会自由党、イスタシア労働党は党是の一部だったルッコラ主義の大部分が失われることに一部議員が猛反発しており党の方針を定められていない。
元老院もルッコラ主義の今後を巡って紛糾している現状議会で何らかの結論が出される見込みは立たず、政治的停止状態は議会召集後もなお続いていきそうだ。

【社会】世論調査 全部門通じ「心を閉ざしている」過半

12月28日(873年)、政府は四カ国共同声明後初となる世論調査の結果を公表した。調査は政治分野に限らず家族感など幅広い分野に渡り意識を調査するため例年通り行われたが、結果ではどの分野においても「心を閉ざしている(ためわからない/興味がない)」という回答が半数を上回る結果となった。特に政治分野において顕著な結果となり、現政権や摂政就任の支持、四カ国声明の印象、次期選挙への参加意識など多くに渡り「心を閉ざしている」は70%を超えた。

この結果にドライベルク(Dreiberg)にて統計データの分析を行っている専門家は「イスタシア人にはショッキングな出来事が生じると耐えきれず心にシャッターを閉めるという国民性がある。女王陛下の失踪はそれだけ多くの国民に共有されるまでにショッキングな出来事だったということだ。」と話した。

【政治】臨時議会、異例の越年も結論出ず閉会

1月11日(874年)、期間が延長され異例の越年となった庶民院臨時議会が閉会した。
議会での論点は四カ国共同声明への対応、国内の開発方針、外貨受け入れ方針、そして女王陛下ご失踪に際した政府対応などであったが、ルッコラ主義を党是としていた社会自由党、イスタシア労働党は一部議員の反発で最後まで党としての結論が出せず議会での議論は完全に冷温停止のままだった。
この結果に、外貨受け入れを積極的な国民進歩党は不満を隠さない。他党との水面下交渉にあたる党幹部は「社会自由党、イスタシア労働党はこれ(四カ国共同声明)を我が国の問題だと捉えられていない。」と強い口調で非難を展開した。また所属議員は「国民にも、誰が真に国のことを考えているのかはっきり示されたことだろう。」と次期選挙への自信を覗かせた。
またかねてよりルッコラ主義を糾弾するイスタシア共産党は「イスタシアの未来は偽善者共に殺された」と糾弾し、摂政による議会召集に反発しボイコットした王国保守党は「偽りの民主主義が展開されている」と異例の二党への非難を展開した。
これら非難に対し社会自由党とイスタシア労働党は有効な反論を行えなかった。イスタシア労働党は「ルッコラ主義は労働党を守る術だ」、社会自由党は「ルッコラ主義は女王陛下のお示しになった道であり安易に転換すべきでない」とコメントしたが、議会での運営手法に関しては一貫し口を閉ざした。

何も結論が出ないままの議会の閉会を受けて一部市民団体は抗議運動を開始している。地元の経営者らの団体であるフィーアブルク(Vierburg)経営団体協会は「ルッコラ主義の放棄または修正は我が国にとって重要な論題であり、議論の放棄はイスタシアの死を意味する。」としてデモ行進を展開した。また女王権威を重視する王国保守党系の市民団体は「偽りの民主主義を弾劾せよ」のシュプレヒコールを上げた。
多くの国民が政治に関して心を閉ざす中わずかに残った関心層は既存政党の多くにそっぽを向いた形となっており、政情は混乱を極めていきそうだ。

【国際】声明四カ国、王国の内政指針を批判。

烈天瓦路の四カ国は9月10日(874年)、声明を受けてもなお方針を明確に改めないイスタシア王国に対し共同で非難声明を発表した。声明では「873年9月の声明を無視し続けているに等しいイスタシアの姿勢はまさしく我々が過去に指摘したとおり鎖国政策を取ってることの証左に他ならず、我々は改めて同国に方針撤回を求めるものである。」としている。
政府は「現在の弊国は明確に他国との交流を絶つ施策を行っていない。」と繰り返し主張したが、外貨受け入れや貿易輸出活発化の方針など肝心の方針については何ら内部で決定されておらず、王国政府は窮地に陥っている。

この日も開かれていた庶民院通常議会はあいも変わらず冷温停止状態であった。議院内第一党、第二党の社会自由党とイスタシア労働党は未だに党内の取りまとめが出来ておらず、具体的方針や賛否を示さないままだった。王国保守党はボイコットの姿勢を崩しておらず、本会議場は国民進歩党とイスタシア共産党議員11名の怒号が虚しく響き渡るのみだった。

王国保守党では不審な動きが見られる。この日党員らは議会をボイコットしフンフシュタット(Fünfstadt)に駆けつけた。 向かった先は民間の政治的集会「ゲルマン主義研究会」である。
極度なゲルマン主義に傾倒し民主主義にさえも懐疑的で知られるこの集会が王国保守党に及ぼす影響が危惧される。

【国際】政府、ノ連邦の「外交的支援」受け入れへ

10月12日(874年)、政府は議会において四カ国共同声明への対応や外貨受け入れの方針について一切定まらない状況を受け、ノイエクルス連邦が提示した「外交的支援」について受け入れる意向を示した。
議会が冷温停止状態であることより政府は議会を介さず閣議決定によって受け入れを進める予定だ。

支援の詳細は非公開であるものの関係筋によれば特別行政区として”属国”化する内容が含まれているとの噂があり、国民には動揺が広がっている。
政府は「直ちに王国の自主性や権利が失われることにはならない」と説明したが、詳細については「相手方の都合もある」などとして説明を避けた。

受け入れ意向の報道を受けゼクスバーデン(Sechsbaden)では王国保守党議員が「国を売り渡すようなものだ」と怒りの声を上げた。次週には受け入れ反対を唱えるデモも予定されており、禍根を生みそうだ。

【政治】王国保守党「偽民主主義者と徹底的に戦う」声明

11月1日(874年)、王国保守党のディートリント・リートミュラー党首は通常国会が再び成果無く終わったことに触れる会見を開き、今後の活動方針について「偽りの民主主義者と徹底的に戦う」と表明した。女王陛下ご失踪以来議会から距離をとって久しいこの政党だったが、今回正式に社会自由党に対する対決姿勢を明確にした形だ。

この日政府は摂政殿下に対し臨時議会の召集を求めたが、摂政殿下は「昨年より幾度とない延長を重ねながら議論しているにも関わらず一切結論が出ていない以上、このまま議会を招集しても意味がない」と否定した。
これを受けレイナ・クロード首相は社会自由党内部の意思統一に注力する構えだが、情勢は厳しい。ルッコラ主義を重視する議員らからは「ルッコラ主義を僅かでも見直すことは国を滅ぼすことだ」などと批判の声が飛び、また国体を重視する議員は「政府は国外に向け前向きなポーズを示すだけで国内では何も進歩していない」と遅々とした対応を批判した。さらには政府が先月受け入れ意向を示したノイエクルス連邦の「外交的支援」について詳細が不明であることに「国を売り渡したのではないか」との声が飛び、党大会は紛糾している。
ズィーベンベルク(Siebenberg)では地方議会与党の社会自由党が主導し「ルッコラ主義の堅持を求める決議」が賛成多数で可決する異例の光景が見られるなど社会自由党は一枚岩とはいい難い。

与党内のこの情勢が伝えられると王国保守党党首は「まぬけな偽善者共の末路」と嘲笑し、国民に向け「誰がこの国のことを心に考えているか。次回選挙ではそこをよく考えて投票権を行使して欲しい。」と力強く呼びかけた。

【政治】上院可決の「資源開発法改正案」が下院で否決 混乱解決ならず

元老院で審議され可決されていた、鉱山について外貨受け入れ要件などを定める「資源開発法改正案」が1月21日(875年)、庶民院通常議会において賛成92反対96棄権12の反対多数により否決された。改正案は四カ国共同声明が求めた外貨受け入れによる鉱山開発促進について道筋を定めるものであったが、否決により混乱は更に長引くことに成った。

改正案に反対したのは社会自由党、イスタシア労働党のルッコラ主義を重視する議員ら。二党は今回党の分裂を懸念し党議拘束を掛けなかったが、結果的に社会自由党からは約6割の76議席、イスタシア労働党からは4割の20議席が反対に回った。
政府は改正案を元老院の可決によって勢いづけることで可決に持ち込む目論見だったが、今回の否決をもって元老院で温められ続けていたこの道筋は一気に振り出しに戻ることとなった。
2月9日には庶民院が任期を迎え総選挙となる。政府は解散前に再度採決に持ち込みたい構えだが、与党内からも造反が大量に出る現状では非常に厳しい道程と言わざるを得ないだろう。

法案の否決の報に市民は複雑な感情を抱える。
アハトシュタット(Achtstadt)でルッコラの栽培を行っている市民は「女王陛下がお示しになったルッコラの道を守った」と歓迎した。改正案についても「鉱山をよそ者に売ろうとするもので、貴族がなぜこのような物を可決したのか理解に苦しむ」と元老院に対する不満さえ覗かせた。
一方同地域でルッコラの流通事業を手掛ける会社を経営する市民は「これで王国が正常軌道に戻る術が消えた」と落胆を隠さない。「元老院では女王陛下がお示しされたルッコラの道とどう両立させるかも含め慎重に議論がなされていた。そのような事情を考慮せずルッコラ主義遵守を理由に安易に否決されてしまったことは非常に残念」と話した。

【速報】庶民院総選挙結果確定 与党社会自由党大敗

本日(875年2月5日)、任期満了に伴う庶民院選挙が実施され結果が即日確定した。最終的な投票率は32.1%。
結果は与党社会自由党及び第二党イスタシア労働党が大敗し、国民進歩党、王国保守党、イスタシア共産党が大勝利し議会を三分する混沌となった。
結果を受けて社会自由党党首で首相のレイナ・クロード氏、イスタシア労働党党首のエリザベータ・アードルンク氏は共に引責辞任することを発表した。両党は116議席減、42議席減という結果に終わっており、新党首は焦土と化した党を立て直すことができるか注目される。
資源開発法改正案に賛成を示さなかった社会自由党、イスタシア労働党から離党し選挙戦を戦った7名の無所属議員は刺客を送られながらも完勝した。今後7名の議員らは統一会派結成も視野に行動する見通し。
一方第一党となる国民進歩党の党首ゲルヴィーン・ヘルダー氏はノインバーデン(Neunbaden)において勝利宣言を行った。今後党は組閣を開始するが、第二党、第三党の王国保守党、イスタシア共産党は共に国民進歩党との関係が芳しく無く少数与党となる可能性も残っている。

詳細な結果は以下の通り。

社会自由党 国民進歩党王国保守党イスタシア労働党イスタシア共産党無所属
1160588567200

【社説】国民進歩党-王国保守党連立政権は王国を救うか?

875年2月10日、首相を任命する議会投票が行われ、国民進歩党、王国保守党及び無所属議員7名による賛成多数によってゲルヴィーン・ヘルダー氏が首相に任命された。

当初連立交渉の道筋が読めず少数与党も懸念された首相投票だったが、王国保守党が「民主主義のパートナーとして相応しい風格を有している」などと突如国民進歩党への支持を明言したことで無事に政権発足となった。
背景には国民進歩党の支持基盤である財界が、イスタシア共産党の掲げる「企業の国有化」に猛反発していたことも挙げられよう。
元々国民進歩党は”中道右派”に属すると言われる。極左に属するイスタシア共産党と比較した場合に、”右派”と言われる王国保守党が連立候補となるのはある意味当然のことであった。

発足したヘルダー政権は早速「資源開発法改正案」の早期成立及び四カ国共同声明の全面的受託を明言した。ルッコラ主義の放棄とも呼ばれる両議案は2年もの間王国を冷温停止に陥れた要因の一つであり、解決により王国政治が再び息を吹き返すことが財界、そして保守層からさえも期待されている。
しかし私は、この政権が極めて危ういものであろうことを指摘せねばならない。それは国民進歩党に関する要因ではなく、与党第二党となる王国保守党に関するものだ。

そもそも王国保守党とは女王陛下とルッコラをある種狂信する政党であった。女王陛下ご失踪から1年半が経ち、摂政殿下への不支持によって議会のボイコットを行っていたかの党は、しかし選挙前後に人が変わったかのようだった。
まず第一の変化は摂政殿下が召集する議会へ平然と登壇するようになったことだ。これはまさしく選挙の直前の議会会期末、そして選挙後の首相任命投票で明らかだ。党首はこれについて「単にボイコットするだけでは国難を突破出来ない。偽りの民主主義者と戦うべく断腸の思いで決断した。」と語るが、以前の女王への狂信から来た摂政殿下への批判と比較すればまさしく別人のようである。
第二の変化は、ルッコラ主義に一切言及しなくなったことだ。以前の王国保守党はルッコラ主義について「女王陛下の指し示した道であり何が何でも守らねばならない」などと主張していた。ところがこの選挙戦においては、党がルッコラ主義について、あるいは農作物としてのルッコラにさえ言及することはなかった
これらの2つの変化を表すかのように、公表されている党の政策からも女王、ルッコラ主義の文言はなんと撤去されている。しかし代わりに増えた文言が存在する。それは「ゲルマン主義」である。

ゲルマン主義とはイスタシア人も含むゲルマン民族が優越であると信じ、団結したゲルマン民族の連合ないし国家を形成し、あわよくば世界に覇権を唱えんとする思想である。
8世紀前半、フリューゲルでは大スラヴ主義が戦乱をもたらした。スラヴ民族の団結を求めたある国は新たなスラヴ民族の国家を生み出したが、独立後の運営は立ち行かないままその国は滅亡に至った。
今国際社会で活躍する国家にゲルマン民族は少なくない。しかし見つめればそれぞれの国は多種多様であり、統一された姿など到底見いだせない。
女王陛下がご失踪し、ルッコラも見直しが進められる中でイスタシア人の誇りを言語や文化に見出す試みは止めようがない。しかしそれは国外のゲルマン民族に左右されるものだろうか。
移民船団時代、我々は他の民族と無関係に長き時を生きてきた。民族の誇りは自らの手によって見出し、あるいは作り出していくべきだ。

ヘルダー政権は王国保守党との連立交渉にあたり、ルッコラ主義の見直しと引き換えに「ゲルマン民族としての教育の拡充」と「共産党への毅然とした態度」を飲んだと言われる。
王国保守党の幹部は会見で「ゲルマン主義が戦乱につながるというのは悪質な印象操作だ」「我々はイスタシアの先進的な民主主義を尊敬しているし、これからもそうだ」と話した。しかし私は見逃さなかった。会見の終わり、彼女は退場の間際に不敵な笑みを浮かべていたのである。

王国保守党の不敵な笑みの元、王国はどこへ進んでいくのだろうか。
ツェーンブルク(Zehnburg)の街は、今日も夕日に揺らいでいる。

文責:アメリア・ケルヒェンシュタイナー
発刊:875年4月10日

【社会】政治記者が不審死 警察は慎重に捜査

4月18日(875年)、ヌルブルク(Nullburg)の一軒家内で女性記者のアメリア・ケルヒェンシュタイナー氏(37)が死亡しているのが家の主により発見された。死因は毒物による中毒死と見られる。

警察によれば家の主や周辺住民と死亡した女性の間に面識はなく、また周辺で不審な人物の目撃情報などは無かった。また勤務する会社によればこの日女性は休日だった。

警察は自殺他殺両面を考慮し慎重に捜査を進めている。

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