「今や、我々には一刻の猶予も許されない」
リブル国軍核兵器研究科長、藤村は、山の中を走る公用車の後部座席に身を沈めながら沈痛な面持ちで、ハンドルを握る課員村山の目を見ながら言った。
「トータエ、レゲロ、そしてレゴリス。相次いで大規模な爆発が確認されている。なかでもレゲロは実験成功を宣言しており、まさに大核武装時代を迎えておる。我々SLCN加盟国は、これらの核武装先進国の後塵を拝す事態、極めて重大な時局だ」
「あれらは巨大隕石の落下なのでは」
「それらが偽情報だとしたらどうする」
「いえ、セビーリャ相手のモテモテウテウテカテカテ作戦の例もあることですし……」
「モテモテウテウテカテカテ作戦はもちろん、既に着手しておるし、成功の目途もたっている」
「はあ」
「はあとはなんだ」
「いえ、成功の目途というのは……」
「これはまだ極秘なので、部外への情報漏洩には気をつけてもらいたいが、実はさる筋から、レゴリスの駐リブル武官は、『銀色ロリババア』に目がないらしい」
「銀色……ロリ、ババア、ですか」
「なんだ、ずっと締まらん顔をして」
「『銀色』の解釈はともかくとして、『ロリババア』とは、如何なるものでしょうか」
「君、我々高級軍人は、世情に交わらずともこれに通じておかなければダメじゃないか。たしかに、『ロリ』と『ババア』は相反する概念であり、一見すると結び付けようがないかのように思える。しかし、ここがミソだ」
「もしかして、『ギャップ萌え』ということでしょうか」
「わかっとるじゃないか。年増が着る女学生服からしか接種できない栄養がある、と昔からいうだろう。これを一言で表したのが、『ロリババア』だ」
「なるほど、さすが課長です。して、『銀色』というのは。銀髪、ということでしょうか」
「村山よ、やはりお前はまだまだだな。銀髪などというものは、要は総白髪。ババアにババアをかけてどうするつもりだ」
「一言もありません」
「こういうものは、普通に考えればいいのだ。全身銀色、銀粉ショーだ」
「話には聞いたことがありますが、ははあ、レゴリス武官も相当ですな。ん、いや、ちょっと待ってください」
「どうした、銀粉ショーに出たいのか」
「その前の、『ロリババア』の解釈です。例えば、こういう可能性はないでしょうか。見た目は十代の少女ですが、実年齢は七十代のババア、というギャップ萌え、であるとか」
「お前は何を言っているんだ」
「はあ」
「お前、十代のロリっ子に見える七十代のばあさんを見たことがあるのか?」
「ありません」
「いると思うのか?お前、探してこいといわれたら、見つけてくる自信はあるのか?」
「ないです」
「我々には自由な想像力が必要だが、それも科学的な思考を前提にしなければならん、わかるね」
「はい、ご指導ありがとうございます」
車中に気まずい沈黙と、藤村の吐く煙草の煙が充満した。
「まあいい、とにかく、対レゴリスのモテモテウテウテカテカテ作戦はこの方向で実施するとして、そろそろ本命が見えてきたぞ」
「あの作画が崩壊した建物のことでしょうか」
「そう、南夏電波塔だ。毒電波時代の技術が詰まっている」
「毒電波ゆんゆん塔と核武装になんの関係が」
「核兵器の作り方を宇宙人に聞く」
「宇宙人なんぞ、いるのでしょうか」
「お前、前々から少し頭が足りないんじゃないかと思っていたが、本当にどうしようもない馬鹿だな」
「といわれましても、それこそ宇宙人を見つけたことがないので……」
「我々の先祖はどこから来た」
「地球……あっ」
「そうだ、フリューゲル外生命体、文明、それも核兵器開発能力のある文明は、少なくとも確実に存在したのだ」
「すると、電波ゆんゆん塔の目的は……」
「そうだ、敵国に直面しこれを撃砕すべきにもかかわらず、防災都市が堅牢すぎるがため、行為に着手することができない我々の窮状を切々と訴え、核兵器の開発方法を問うメッセージを、これから全宇宙へ向けて発信するのだ」
「大丈夫でしょうか」
「何がだ、宇宙人も人だ、こちらが真心を以て胸襟を開いて頼めば、ツァーリボムの作り方くらい教えてくれるだろう」
「かわりにツァーリボムが送られてくる可能性はないでしょうか」
「それなら話が早い、出来合いのツァーリボムを敵国へそのまま投げつければいい」
「いや、そうでなくてですね」
「なんだじれったいやつだな、もう着いたんだから降りるぞ」
藤村は確信に満ちた顔で電波ゆんゆん塔の中へ歩みを進め、村山はしきりに首を傾げながらこれに続く。
「ポチっとな」
藤村が発信ボタンを押すと、ゆんゆんと電波が発信されていく。
「これで宇宙人に届くのでしょうか」
「電話で確認するか」
二人は軽口を叩きあいながら、祝杯のシャンパンを開栓した。
なお、レゴリス武官へのモテモテウテウテカテカテ作戦は、失敗に終わった。原因はいまだ不明である。