1178年3月14日付〈中央通信〉
13日午後、ムメイ・トリディマイト外交委員長は臨時の記者会見を開き、KPOが発表した「イスタシア人民との連帯声明」に関する見解を示した。ムメイ外交委員長は同声明中でKPOがノイエクルス連邦に対して要求した「KPOによって設置される通商評議会によるノイエ=イスタシア間貿易の適正化」に対して外交委員会が懸念を有していることを明言し、今後KPO側による当該要求の説明次第では当該要求の取り下げをKPO側に求める可能性を示唆した。ムメイ外交委員長の記者会見全文は以下の通り。
外交委員会は、先般カルーガ条約機構(KPO)が発表した、「イスタシア人民との連帯声明」に対して強い関心を持って注視しています。当該声明において、KPOはノイエクルス連邦に対して「カルーガ条約機構によって設置される通商評議会のもと、イスタシア自治領との貿易適正化を図ること」を要求していますが、本要求がイスタシア自治領からノイエクルス連邦に対し、あるいは第三国に対し輸出される資源をKPOが管理することを目指す趣旨であれば、共和国はこれに対して反対する意思があります。
我が国は1169年に発効したカルセドニー=イスタシア協定第1条に基づき、イスタシア自治領に対するノイエクルス連邦の主権を承認した立場にあります。これは、1163年に烈瀬桐3ヶ国と共同で発表した「イスタシアに対するノ連邦の請求権に関する共同声明」において表明された「ノイエクルス連邦はイスタシア自治領の独立を承認すべきである」という立場とは異なるものでありますが、これは1165年に締結されたノイエクルス=イスタシア協定が、両者間の平和裏の交渉の成果として達成された相互合意であるという立場からこれを尊重することとしたものであります。1169年のカルセドニー=イスタシア協定もノイエクルス=イスタシア協定がイスタシア人民が支持するところであるということを前提に締結されたものです。我が国は、少なくともこのような前提が持続する限りにおいて先に述べたような立場を維持します。
一方で、1163年の「請求権に関する声明」に連名した烈瀬桐3ヶ国がノイエクルス=イスタシア協定を承認したのかどうかは立場が表明されていませんでしたが、今般のKPO声明は、少なくともトータエを含むKPO諸国は当該協定を承認した上で、その破棄を要求するという立場を明示したものであると考えています。我が国としては、当該協定をどのように扱うかはKPOではなくイスタシアとノイエクルスの間の協議によって決定されるべきものであり、イスタシア自身の立場が表明される前にKPOが協定の改廃を要求するという手順には懸念を有するものではあります。とはいえ、イスタシア人民自身が協定の改廃を求めるのであれば、ノイエクルス連邦側に誠実な協議に応じる道義的義務は存在するでしょうから、この点については深くは立ち入りません。
これに対し、要求の最後に挙げられている「KPOによって設置される通商評議会によるイスタシアとの貿易適正化」は、協定の改廃とは無関係です。協定が維持されるのであれば現時点の貿易は協定に基づく「適正」なものですし、協定が改定されるのであれば「適正な貿易量」はイスタシアとノ連の間の協議で決定されるべきですし、協定が破棄されるのであればイスタシアからの資源輸出はイスタシア自身の決定に基づいて行われるべきでしょう。それにもかかわらず「通商評議会」なる組織を「KPOが」設立すると明示し、その受け入れを要求していることは、イスタシアを形式的に独立させたうえで貿易の意思決定権をKPOが掌握しようとしているという懸念を有させるに十分なものです。仮に「通商評議会」がイスタシアとノイエクルスの間の貿易関係に限った権能を有するとしても、イスタシアの有する貿易意思決定権をKPOが奪おうとしているという構図には変わりありません。どのように考えても、私はKPOがイスタシアとノ連、あるいは第三国との貿易関係に口を出す権利を正当化する理由を思いつきません。また、我が国は1169年からノ連との間で重ねてきた同連邦の郵便網への理解のための並々ならぬ努力と、官僚主義的貿易決済制度に対する忍耐強い外交交渉の成果として、同連邦からイスタシア産石材の定期輸入契約を先般獲得しました。したがって、「通商評議会」が当該貿易の前提となっているイスタシアからノ連への石材輸送を停止させようとするのであれば、これは我が国の経済的利益を直接的に損なうことにも留意してください。
以上のような認識を踏まえて、我が国は、KPOが「通商評議会」を通じてイスタシアの有する貿易に関する意思決定権の一部ないし全部を我がものにしようとしているのであれば直ちに当該要求を取り下げるべきですし、そのような意図がないのであれば、国際社会の納得を得られるような形で当該要求についてより明確な説明を加えるべきであると考えています。以上の表明は現時点においてKPOを非難する意図ではありませんが、先般我が国とリブル民主共和国によって提示されて現時点で回答が得られていない公開質問状への回答同様に、KPO側に誠実かつ真摯な対応を求めるものである、ということは申し上げておきたいところです。
質疑応答
――あくまで懸念点は「通商評議会」に対するものに限られているという認識でいいでしょうか(中央通信記者)。
現時点ではその通りです。KPOのイスタシア独立要求がKPOとノイエクルス連邦の間の外交的紛争、あるいはそれ以上の状況に発展するのであれば国際社会の平和と安定に対する危機として認識しなければなりませんが、今の段階で外交委員会が関心を有しているのはその部分に限られます。
――ノイエクルス=イスタシア協定は、ノイエクルス側に有利な力関係のもとで締結された協定であるという認識はあるのでしょうか。そのような認識があるとしても、協定がイスタシア人民の支持するところであるという前提は維持されるのでしょうか(中央通信記者)。
ノイエクルス側に有利な力関係のもとで交渉が開始されたという事実は存在しますが、当時の加烈瀬桐4ヶ国声明はイスタシア側にある程度の「交渉力」を付与する効果があったと考えています。また、「ノイエクルス側に有利な力関係」自体がある程度過去の歴史的経緯を踏まえた帰結である、と言うこと自体も否定はできません。そのような前提のもとで両者が協議を行い、合意された協定であるというのが我が国の認識です。したがって、協定が少なくとも交渉を行った時点において、イスタシア人民の支持するところであるという前提は、協定の交渉プロセスを踏まえた上でも支持できるものであると考えています。
――協定に対するイスタシア人民の支持が失われた場合においては、外交委員会の立場に変化はあるのでしょうか(民間紙記者)。
先ほど申し上げたように、「イスタシア人民自身が協定の改廃を求めるのであれば、ノイエクルス側に誠実な協議に応じる道義的義務は存在する」というのがいかなる場合においても外交委員会の立場であると考えてもらって構いません。しかしながら、「通商評議会」なる組織を通じてKPOがイスタシアの貿易に介入することは、ノイエクルス=イスタシア協定の取り扱いとは無関係に、我が国としては懸念を提示せざるを得ない、ということになります。
――公開質問状への回答が得られないまま、今般の声明が発せられたことについてはどのように受け止めていますか(民間紙記者)。
彼らの優先順位がそのようなものであった、ということ以上でも以下でもないように思います。
――KPOが公開質問状への回答せず此度の声明を出した事に対して、外交委員長は「彼らの優先順位がそのようなものであっただけ」と仰られていますが、このような行為を行うということはKPOはSLCNを謂わば「舐め腐っている」ように見受けられますが、今後KPOに対してどのような態度を取られる見通しでしょうか。(フリー記者)。
私はあまり強い表現を使わない主義ですが、彼らの優先順位が公開質問状より対ノイエ声明にあった、という客観的事実の存在について、記者さんのおっしゃったようなかたちでの解釈を与えることは……まぁ……まるっきり不妥当であるとは……いや、やはり、私としては外交のプロとして、相手側の態度に関わらず我々は一貫した態度を用いるという立場を堅持したいと思います。公開質問状に関して問題なのは順番ではなく、あくまで回答自体の結果として我々が有している潜在的な懸念が解消されるかどうかという点にあります。
――政府は、烈瀬桐との共同声明において、「石材の取引レートは国際的に広く用いられているレートに照らして不合理ではない対価が支払われるべきである」と主張していました。しかし、委員長は先程「ノイエクルス連邦からイスタシア産石材の定期輸入契約を獲得した」と述べられました。これは、ノイエクルスとの協定を結ばざるをえなかったイスタシアにとって、ノイエクルスによる石材搾取を肯定しているように見えるでしょう。カルセドニーとイスタシア間の協定によりノイエクルスの主張を承認したといえ、イスタシアと友好関係を築く上で、この貿易契約締結は不適切であったのではないでしょうか(フリー記者)。
ノイエクルス=イスタシア協定はイスタシア人民の支持の下で締結されたものであり、4ヶ国共同声明の内容にとらわれず両者間の合意を尊重することにした、という立場は説明した通りです。したがって、ノ連が石材を搾取している、というご質問の前提を外交委員会は共有しません。また、ご理解いただいている通り、カルセドニー=イスタシア協定はノイエクルス=イスタシア協定を承認するものであり、これについては協定交渉時にイスタシア側にも同意を得ています。したがって、ノイエクルス=イスタシア協定に定められた規定に則ってノ連に輸送されている石材を我が国が購入することは、イスタシアとの関係性を損なうようなものであるとは考えておりません。
――共同声明における立場を改めたとしても、イスタシア側が鉱産資源を獲得する上で不利な立場に置かれていることは事実です。それについて、ノ連から石材を購入するという形で積極的にノイエクルスへの石材輸送を追認した我が国に何らかの責任が生じるという考え方は持たないのでしょうか(フリー記者)。
我が国は、カルセドニー=イスタシア協定を通じてイスタシアに対して建材を「原価割れ」の価格で供給するという形での経済支援を行っています。これは、協定第3条に「イスタシア自治領が領域内の鉱山から産出する資源の一部を自己の利益のために処分することが不可能な状況にあることに留意し」とあるように、イスタシアが石材を対価を得られない形でノ連に供出することになっているという状況を踏まえた上で行われているものです。したがって、我が国はイスタシアの状況に最大限配慮していますし、ノ連からの石材がイスタシアへ提供する建材の原料になるということを考慮すれば、我が国がノ連から石材を購入することは石材がノ連の港の沖で魚の巣になるよりはるかにイスタシアにとって望ましい態度であると考えています。
――現時点ではKPOの声明へのイスタシア側の反応は報じられていませんが、イスタシア人民がKPOの干渉による「通商評議会」の設置を支持し、あるいは更なるKPOの対椅影響力拡大に対し歓迎する姿勢をとった場合や、あるいは反対にイスタシア側がKPOに反発する場合など、イスタシア側の対応について外交委員会はどのような見通しを持っていますか。また、外交委員会の姿勢はそれによってどのように変化しますか(フリー記者)。
イスタシア側の対応については現時点では明らかになっていませんが、支持する場合、反発する場合それぞれについて外交委員会ではシナリオを検討しています。イスタシア側の反応次第では、イスタシア人民が「通商評議会」をどのように認識しているのかと、KPO側がどのように認識しているのかを正確に理解する必要があると考えています。しかし、先に述べた通り、KPOがイスタシアの貿易についての意思決定権を掌握することによってイスタシアがどのような利益を受けるのかについて私はアイデアを持っていません。
――フリューゲル国際連合の組織や制度の改革について、現状における問題点と、考えられる改革の方向性について教えてください(フリー記者)。
我が国は近い将来安全保障理事会の手続規則改革を提起することを決定しており、各国と事務レベルの協議を進めています。これは、安保理の議題採択が過半数の理事国の支持を必要とするために、数多くの理事国が「議題名称だけを根拠に特定の議題に対する賛否を決定する」という困難に直面している状況を修正することを目指すものです。また、国連本部について、設置のための基準を改めることが総会で決定にされてからかなりの時間が経っているのにもかかわらず状況の進展が見られないことは気になっています。とはいえ、我が国は臨時本部の所在国として国連組織に対して最大限の設備を提供しており、臨時本部を使用するにあたって実際に困っているのは総会の議場で喫煙することを希望している代表くらいのものではないかと思っています。外交委員会としては、臨時本部内の喫煙所の所在を周知するとともに、クリストバライト市から上がっている臨時本部の恒久本部化に向けた立候補の是非について検討を進める方針です。
――総会の議場は禁煙であり、安保理の議場はなし崩し的に喫煙が容認されていることについて、外交委員長はどのようなお考えをお持ちでしょうか(フリー記者)。
私はほとんどの市民同様煙草を吸いません。私自身も国連大使時代に各国代表の副流煙に直面し、これはどんなものかと個人的には感じさせられました。また、一部の代表は煙草を吸うことを一国の代表としての職務より優先する傾向があり、私が発言を求めた他国の大使がそれを無視して煙草に火をつけた時の衝撃は今でも忘れません。とはいえ、安保理の議場で喫煙がある程度までは容認されるという傾向があることはある程度慣習として確立されてしまっていますし、これを変更するように求めることは相応の外交的コストを支払う必要があるものと認識しております。我が国の外交上のリソースというか、各国に我が国の立場を受け入れてもらう余地は有限ですので、現時点で外交委員会は安保理の禁煙化に対してそのリソースを割いていない、ということになります。もちろん、特に国連における喫煙を望まない国が他に存在することも承知しておりますし、それらの国から本件について提起があれば、我が国としてもそれなりの対応をすることになると考えております。
――その、「他国の大使」の態度に対する不快感が、当時のムメイ国連大使の意思決定に影響したという説がささやかれています。ムメイ外交委員長ご自身はこの噂についてどのようにお考えですか(民間紙記者)。
国家の代表としての言動が、個人的感情に左右されるなどあってはなりません。
――KPOのカルーガ条約改定についての認識について質問します。巷では「KPOが近いうちに戦争を起こすのではないか」との噂が立っていますが、政府としてはその可能性についてどの程度考慮しているのでしょうか。また、実際にKPOが第三者に対して戦争を起こした場合、カルセドニーやSLCNとしてどのような対応をとるのでしょうか(フリー記者)。
すみませんが、その噂は初めて聞きました。記者さんの方から、KPOにも同じ質問をしていただければ大変助かります。一般論としてお答えしますと、KPOが具体的な国家との間で対立関係を深める場合、戦争に陥る可能性について検討することは外交委員会の職務ですから、そのような対立関係が発生した時点で外交委員会はそれについて「考慮」し始めるということになります。実際にKPOが第三者に対して戦争を起こした場合、これも一般論としてはFUN憲章との整合性を問い、整合性がない場合においては安全保障理事会に対して対応を求めるということになります。SLCNについては我が国の意見のみで動く組織ではありませんので私から「どのような対応を取る」とは言いかねますが、SLCN加盟国がその「戦争を起こされた第三者」であれば集団的自衛権に基づき反撃するでしょう。
――SLCNとレゴリス帝国陣営が覚書を交わして事実上の同盟国となってから40年以上が経過しました。今のレゴリス陣営、またレゴリス帝国はカルセドニーにとってどのような存在でしょうか(フリー記者)。
カルセドニーは歴史的経緯から、「死命を一にする」という認識を有することができるような国家以外とは軍事同盟関係に入らないという外交方針を一貫して掲げています。正確に言うと、外交不活発な中小国家に対する保護という意味合いから与えられる形の安全保障はこの例外ですが、レゴリス帝国がこのカテゴリーに該当しないことはここにいる全員が理解していると思います。これは旧共和国時代の様々な苦い経験や、「芋蔓安保」によって望まない形で戦争に引きずり込まれた歴史上の各国からの教訓によるものです。したがって、我が国がレゴリス帝国と「SLCN=レゴリス覚書」を通じて同盟関係に入ったことは、それ自体が我が国がレゴリス帝国を「どのような存在」であるかの認識の表明であるというように考えています。覚書の成立から40年以上が経過していますが、我が国にとってレゴリス帝国が単なる安全保障上の利害関係に基づく同盟ではなく―そもそも、そういう利害関係だけを理由に他国と同盟を組むということを我が国は最大限避けるようにしているということは先ほどの説明でお分かりいただけたと思いますが―それ以上の関係であるということは変わりありませんし、今後も変わり得ないでしょう。あるいは、変わり得ないと確信したからこそ、同盟関係に入るという判断をしたわけです。
――ここしばらく、外交委員会はルッコラの葉が落ちたように精力的に活動しています。各委員には適切な休暇が与えられていますか(中央通信記者)。
現在が「繁忙期」に当たるということは否定できませんので、各外交委員には負担をかけることにはなっているかもしれません。とはいえ、外交委員長としては各外交委員が最適な形で仕事ができるように、適切に休養を与えるようにしています。私自身も例外ではなく、昨日は21時ごろには帰宅し、今朝はちゃんと朝食を取ってからこちらに伺っています。
――朝食は何を食べられたのですか(同中央通信記者)。
ゆで卵を食べました。ヘファイストス大学の友人が「超越的ゆで卵を作るための計時装置」の開発に取り組んでおりまして、その試作品としてe分計とπ分計をいただいたので、これを使ってみました。ただ、この2つを立て続けに使用してe+π分茹でたゆで卵を作ったのですが、これが超越的なゆで卵であったかどうかについては私にはわかりませんでした。
――近年、学界の一部では”ゆで卵の超越性”が話題となりましたが、外交委員長が認識するゆで卵の理想的な茹で時間と、用いるに最もふさわしいと考えられる調味料についてお答えください(フリー記者)。
私個人の好みを言わせてもらえば、ゆで卵は半熟の方が好ましいと考えています。茹で時間は6分くらいでしょうか。味付けについては多様性を重視している立場であり、「昨日とは異なる調味料を用いる」ことを好みます。しかしながら、これらについては個人の好みによるところであり、万人にとって理想的な茹で時間や、万人にとって最もふさわしい調味料が存在するとは言えないと思います。
――さきほど「ルッコラの葉が落ちたよう」と表現されましたが、このような近年の国際外交の活発化は、いわゆる「雪解け時代」のような、長期的な国際社会の非ルッコラ化傾向を意味するのか、あるいはごく一時的で短期的な間氷期に過ぎないのかについて、外交委員長はどのようにお考えですか(フリー記者)。
まず、「ルッコラの葉が落ちたよう」という表現を使われたのは質問された中央通信の記者さんですね。そちらの方から回答されますか?(マイクを渡そうとする)ええと、冗談はさておき、フリューゲルは超長期的には衰退傾向にあります。これは残念ながら否定は難しいです。「3枚目国家」は絶えて久しいですし、建国サイクルもあまり速くはないため、1国が滅亡した後、その枠を埋める国家が現れるまでにかかる時間もますます長くなっています。そういう意味で、フリューゲルの最終的な均衡は「氷期」の側にあるということになるのかもしれません。しかしながら、人が最終的に死ぬことは、それまでの人生を無価値にするものではないでしょう。この論理はフリューゲル世界自体にも当てはまると考えています。たとえ今が歴史的には短い間氷期であったとして記録されるとしても、その「短い間氷期」は、人が充実した人生を送るには十分な長さです。
――ひところ、レゴリス帝国の国力の後退に伴う「覇権」の移動という議論が囁かれました。SLCNとレゴリス帝国陣営が事実上の同盟国となった一方、「間氷期」にも突入しつつある昨今の国際社会における覇権や覇者という観点について、外交委員長はどのようにお考えでしょうか(フリー記者)。
現代の国際社会に「覇者」が存在してはならない、というのが外交担当者として答えるべき回答であるとは思います。我が国は覇権を握ろうとするような野心を有してはならないし、諸外国がそのような野心を有するのであればそれを阻止するのが健全な国際社会の在り方です。とはいえ、この世界を一種のゲームであると捉え、そこで戦乱を起こし、「覇権」を握ることにロマンを感じるような政治・外交思想がある程度現実の外交に対して影響力を有しているということは事実として認識しなければなりません。例えば、FUN憲章の定める「正当性のない戦争は行ってはならない」という義務も、言うなればこのような「戦乱を通じた覇権に対するロマン」に対して一定の配慮が行われた結果、旧世界における国連の武力不行使原則に対して後退した表現になっている、ということはよく知られている歴史的事実だと思います。このような外交思想は不道徳であり排除されるべきである、と考えるのは正直に言って理想主義的に過ぎるのであって、我々はこの「ロマン主義」とどのように付き合っていくかについて、現実主義の立場から考えていかなければなりません。
――先立ってのセニオリス首相の「超越の敵」発言が取り沙汰され、いずれは超越連盟のような在野勢力も何らかの外交的な指針を示すであろうことを受けて質問します。現在のカルセドニーの外交的立場を鑑みると、たとえば、社会主義国家として反社会主義的思想には注視しなければならないでしょうし、ラテン主義をはじめとする民族主義は国内の分離主義勢力を扇動する恐れがあるため警戒が必要であろうと考えられます。現在のフリューゲルに数多あるイデオロギーのなかで、外交委員会として、特筆すべきものとしてどのようなものがあると認識していますか(フリー記者)。
大前提として、政治的イデオロギーに外交が左右されることは基本的には望ましくない、というのがフリューゲルにおける外交の実態だと思います。社会主義者と超越主義者が国家連合を形成することすら可能である、というのが端的な例証ではないでしょうか。とはいえ、特定の政治勢力が外交政策を策定するにあたって、イデオロギーが反映されたものになることもないわけではありません。ご質問中の例で言えば、「超越主義的外交政策」が、例えば超越主義を掲げている国家や勢力を重視し、そうでない勢力を「敵視」するという形で定義されるのであれば、それは単なる「政治的イデオロギー」ではなく、「外交的イデオロギー」であり、このような「外交的イデオロギー」に対しては、外交委員会としても注意を向けざるを得ないのではないかと考えています。民族主義については、レクハ・アメトリン連邦共和国初代大統領の言葉を思い出していただければいいのではないかと思います。民族主義が国内の分離主義を扇動するのであれば警戒が必要と言うのはご指摘の通りですが、それが「任意の」民族主義に対する警戒を必要とするかは自明ではありません。
(以下、加筆予定)
超越連盟各派、外交方針策定へ議論進む
超越連盟は、1180年末に共和国議会の総選挙を要求する決議案を再度提出する方針であり、これに向けて過去の選挙において「弱み」であるとみなされていた外交方針について議論を進めている。一方で、ティーナ・ユーファストーン共和国議会議員の唱道する「部屋の二つある家」という基本姿勢のために超越連盟全体で外交方針を統一しようとする動きは見られず、連盟内の各政治勢力が独自に議論を進めている様相である。
エント・アベンチュリン生産搬送配給委員長が超越連盟の指導的地位を手放して以降連盟内での影響力が低下傾向にある円環派はセニオリス連邦のミア・タイチェヴィチ首相の「超越の敵」発言をきっかけに「超越主義外交」派と「平和主義外交」派に分かれて議論を重ねている状況であるとされる。セニオリス連邦において今や一党優位政党と化した制度的超越党(ITP)やロムレー湖畔共和国の超越主義諸党派などの、海外における超越主義運動との連帯を掲げる「超越主義外交派」は現在の共和国の外交方針が「同盟偏重」であるという批判を展開している。これに対して「平和主義外交」派は近年の共和国の外交方針がタカ派的に過ぎるという点を批判点として掲げており、ロシジュア的な超越主義の本流に立ち返って国際的な緊張状態を緩和することを提唱している。特に、「国際的な軍拡モラトリアム」を提唱し、鉄鉱山をウラン鉱山や銀鉱山などの「民生資源」鉱山に転換することを促進するとしている点は独自の外交政策の目玉として注目される。
一方、超越連盟の発足以来一貫して日陰者に甘んじている角錐派内では、その本来の主張であった大統領制の復活を完全に放棄し、「大統領制無き共和制国家」としての地位を確立すべきであるという新派閥が出現した。同派はBCATとの外交関係を伝統的に重視する角錐派主流派の外交認識を再解釈した上で国際社会の構成主体を「五大陣営」として解釈し直すべきであるという立場を提案しており、この立場から自らを「五胞派」と呼んでいる。四次元図形を派閥名称に採用したのは円環派の「表裏一体」と同様に自らの超越主義者としての位置づけを強化するためであるとされる。角錐派の分裂は避けがたい状況にあるようではあるが、「五胞派」がどれほどの勢力を派閥内で確保しているのかは判然としない状況である。
超越連盟の共和国議会内での最大勢力である議会民主派は外交方針の策定につまづいている状況のようである。同派は穏健的漸進主義の立場をとっており、外交方針においては「民主主義国家との協力を重視する」という看板を提示したが、そもそもいずれの国家が民主主義的であると言えるのかについては意見の一致が見られていない。民主派のもう片割れである司法民主派についても外交姿勢は不透明なままとなっているが、同派は議会における勢力伸長を重視しない急進派的な立場から外交姿勢についての意思決定を後回しにすることを容認していると見られている。
最後に、同じく議会活動を重視しない急進派の中でも自由主義勢力は海外との連帯を重要視する立場からか司法民主派に比べるとはるかに外交方針の策定が―望ましくない形で―進んでいるようである。同派は反社会主義的な立場を明確に掲げる自由主義本流と、ガーネット州のセビーリャ系住民のナショナリズムを刺激する民族主義的勢力に分かれつつあり、後者はその広報誌であるAdvance!紙を通じてトータエ国内の反政府武装勢力であるカリヌナ解放戦線(KLF)を「模範にすべき」とまで主張している。セビーリャ系ナショナリズムはガーネット州の分離運動につながりかねないとして内務公安委員会は警戒を強めている様子であるが、現時点でこれらの勢力の抑え込みには成功していないとみられる。
なお、1180年総選挙の実施にはサンディカリスト連合の協力が不可欠であり、超越連盟はサンディカリスト勢力との接触を図っている。エント生産搬送配給委員長が退き、非社会主義的な「三原則」が後景に引いた現時点ではサンディカリスト側も超越連盟に対する反発姿勢を再考する構えを見せているが、サンディカリスト連合内でも自らを急進的超越主義と位置付ける「超越派」は超越連盟を「超越の簒奪者」と呼んではばからず、超越連盟と実利のために一定の協力も検討すべきであるという非超越的な主流派との間ですれ違いが生じている。「非評議会派」各派が統一した立場で政界に臨めるまでにはまだしばらくかかる様子である。
【国際】KPO声明、各国の評価分かれる。別府宮殿報道官は憂慮、瀬大統領府は一定の評価。
【政治】社会主義評議会主流両派、統一政党の結成に向けて協議を開始。1020年以来の政党政治復活の日も近いか。
【貿易】ノ連からのイスタシア産石材の定期輸入開始に、近年石材不足から稼働停止していた建材製造業界狂喜。