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1179/4/12

自宅から待機させたヘリに乗り込み、宮殿へ向かう。今日は一体どんな話を聞かされるのだろう。胸の内で溜息をつきながら呟く。「誰か変わってくれないかな……」「着きましたよ、アスタリス元帥閣下。」護衛兼秘書のヘルタイドが無情にも現実を突きつけてくる。「はぁ……君が代わりに行かないかい?」と半ば本気で頼むと、ヘルタイドは笑いながら返した。「冗談を。唯一の旧アレクシス部隊の生き残りのあなたが行かなければ、皇帝陛下は寂しがりますよ。」「寂しいどころか、怒りながら電話をかけてくるさ。ああ、怖い……どうしてこんなことになったんだか……」

すべては、この呪われた身体のせいだ。移住中になぜか、レオナード陛下やシェーラ皇后、そして私アスタリスを含む数人だけが、老いない身体を持つことになってしまった。「早く死にたいよ、まったく。」そんな本音を呟きながら、重い足取りで宮殿の廊下を進む。

「ただいま参りました、アスタリスです。」会議室に入ると、いきなり白い影が視界を埋め尽くした。ふわりと甘い香りが漂う。「1か月ぶりかしら?シェーラ様、離れてください。」「1か月?もっと経った気がするわ。久しぶりね、アスタリス!」「相変わらずお元気ですね。私はもう疲れ果てていますよ。」「情けないわね!老いない身体を持っているくせに。」「精神的な疲れもあるんです。」そんな軽口を交わしていると、遠くからレオナード陛下が近づいてくるのが見えた。私は軽く姿勢を正し、「レオナード様、この度は……」と挨拶を始めたが、あっさり遮られる。「いい、面倒なやり取りは省け。嫌がらせか?」内心、「こっちだって嫌々来てるんだ」と思っていると、陛下が顔を近づけてきた。「ほう……そんなことを思っているのか。いい度胸だな。」「い、いえ、滅相もございません!」どうやら、また思ったことが口に出てしまったらしい。「まぁいい。今日は外交政策について話すぞ。正直めんどくさいが、仕方がない。」「面倒ならしなければいいじゃないですか。」「そういうわけにもいかんだろう。臣民たちの不満が溜まっているのだから。」「大変ですね〜皇帝陛下も。」「変わろうか?」「いえ、結構です。」陛下は鼻で笑い、話を続ける。レオナード陛下が提案した方針は理解できるが、果たして臣民や政府が納得するのかどうか……。

「まぁ、後はアドリブでなんとかするさ。いざとなれば上院を使って内閣を倒してしまえばいい。」「ジークフリードがそんなことを許すとは思えませんが。」と、シェーラ皇后が釘を刺すと、陛下は頭を掻きながら答える。「あいつ、ほんと面倒だよなぁ……。アスタリス、お前がやらないか?」「無理ですよ。」「ほら、決めたのは陛下でしょう?」と、シェーラ皇后も呆れたように言う。ジークフリード、彼もまた、老いない身体を持つ「超越者」の一人。最近は宰相としてめっきり忙しいらしい。「まぁいい、そろそろジークも来るだろう。」陛下がそう言った瞬間、会議室の扉が開いた。「そんな怖い顔をして、どうしたんですか、アスタリス?またレオナード様にいじめられたんですか?」顔が熱くなる。「い、いえ、そんなことは……!」「いやいや、お前の姫君が面白い反応をするのでな。」「こ、こいつ……!」「レオナード様、あまり私の妻をいじめないでください。かわいいのは分かりますが、ほどほどに。」「えっ、ジーク?何を言って」ジークと陛下の軽口に気圧されるが、いつの間にか会議の時間が迫っていた。ジークに冷たくされている気がして、つい近づいて小声で言う。「帰ったら久しぶりに……映画でも観ましょう。」「約束ですよ?」そう言って微笑むジークに、私は少し安心した。気を引き締めた私たちは、大会議室に向かう。レオナード陛下が一言。「さて、小童どもの相手をする準備はいいか?」私たちは静かに頷き、大扉を開いた。これが、1179/4/12の始まりだった。

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