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リブル核武装研究室の華麗なる日々(1)

「俺は防災都市だ」

「はあ」

 自信満々に言い放ち、六尺ふんどし一丁、筋肉隆々仁王立ちしているのは、国軍核武装研究科長たる藤村である。その意図するところがわかず困惑しているのは、課員の村山だ。

「復唱しろ」

「はい、藤村課長は防災都市であります」

「よろし。これはミサイルだ、わかるか」

 藤村の目線の先には、一抱えもある籠に山と積まれた赤玉鶏卵がある。

「はい、卵はミサイルであります」

 なにもわかっていないが、回答としてはこれ以外の正解が考えられないので、村山は機械的に復唱する。

「防災都市に向けてミサイルを発射せよ」

「はい、防災都市に向けてミサイルを……発射でありますか」

「ミサイルに発射以外の使い道があるのか」

「はい、ミサイルを防災都市に向けて発射します」

 村山がなおも困惑していると、藤村が眉間にしわを寄せ、「なんだこの馬鹿は」と我慢ならないといった風になった。

「ミサイルとは何か」

「ミサイルは卵であります」

「防災都市は」

「藤村課長であります」

「発射せよ」

「はい」

 村山が恐る恐る籠の中の鶏卵を一つつかみ上げる、生卵のようだ。すると、藤村の口元が「うむそうだ」といったように動いたので、「これでいいのか」と思いながら、手首の力でもって卵をダーツのように藤村へ向けて投げつけた。卵は放物線を描いて藤村課長の足元で割れて、殻と白身が飛び散った。

「貴様、軍人のくせにミサイルもまともに撃てないのか!」

「はい!」

 わけがわからない怒声を浴びて慌てた村山は、また鶏卵をつかみ、肘を後ろへ振りかぶってエイと女の子投げをすると、今度は藤村の眉間に命中、黄身がカイゼル髭の上にトロりと停滞している。

「まだまだ!そんなことで防災都市が破壊できるか!」

「はい!」

 村山が手榴弾投げの姿勢をとろうとすると、

「ワインドナップで投げろ!」

 と、罵声がとんだ。

「はい!」

 ワインドナップのミサイル発射が何の謎かけかわからないが、こうなればヤケだ。村山は、ちぎっては投げの獅子奮迅、滅茶苦茶に生卵を藤村に向けて投げまくり続けた。

「防災都市はどうか」

「はい、ひどい有様であります」

「馬鹿!なにがひどい有様か」

 藤村は、全身卵まみれでヌルヌルだが、自信満々である。

「俺はこうしてちゃんと立っとるじゃないか」

「はあ」

「まだわからんのか、よし、次はお前が防災都市だ。この卵はミサイルだ、どうだ、ケガをしたか」

「いえ」

「そうだろう、よし、次もミサイルだ、どうだ、こたえたか」

「いえ」

 村山の軍服が、どんどん生卵まみれになっていく。

「このミサイルも、このミサイルも、防災都市を倒せない、わかるか。リブル人民軍340万人は、みな生卵を投げつける練習を一生懸命しとるんだ、貴様悔しくないのか」

「悔しいであります」

「そうだ、ちゃんと敵の防災都市に、鉄拳を見舞えないと、俺たちは全員、生卵投げの役立たずなんだ、だから核武装三原則が必要なんだ」

「はい!持つ!撃つ!勝つ!」

「よろし!その意気だ!」

 藤村は、わが意を得たりと満足したようで、肩を怒らせて室をあとにした。残されたのは卵の殻が散乱しヌルヌルになった床と、ペペローションの一斗缶でも頭からかぶったかのような村山である。そこに、当番兵が入ってくる。

「あ、君、これを片づけてくれ」

「なにがあったのですかこれは」

「防災都市にミサイルをだなぁ」

「は?」

 村山は当番兵に、核攻撃を実施した。

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