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【政治】ナータリス政権の遺産

【政治】ナータリス政権の遺産

 1122年、共和政最後の執政官として就任したルキア・クラウディウス・ナータリス氏は、1128年に連邦制への移行を経て初代連邦執政官となった。その任期が終わりに近づく今、彼女は政権の成果を歴史に刻むべく、その遺産を着実に築き上げている。

 彼女が残した(と後世セリティヌム史家に評価されるであろう)遺産は数多くある。内政面では連邦制度への移行を成し遂げ、セリティヌムの国制を現実に即した、かつ現代的なものに改めたことである。これについては、彼女の反対者ですら、彼女の功績であることは誰も否定しないであろう。
 しかしそれ以上に注目すべきは、外政面、セリティヌム連邦が国際舞台で果たすべき役割を拡大させたことだろう。10世紀に国連に加盟して以来、約150年間セリティヌムの外交官たちが長年の悲願としてきたフリューゲル国際連合安全保障理事会一般理事国の席を、諸外国の支援のもと、ナータリス政権は遂に獲得するに至った(任期は1141年以降)。

 また、SLCN・WTCOの中心的存在であるカルセドニー社会主義共和国との間に締結されたイリュクリム条約、そして現在も続いているが、1139年末から始まった長期外遊により結実したFENA圏・レゴリス帝国同盟の中核であるレゴリス帝国とのハイネセル条約の締結も見逃せない。これらの条約は、セリティヌムの対外関係を一層強固なものとした。
 第II委員会の官僚たちは水面下で次の施策を検討しているという噂もあり、BCATに加盟する前後と比べても、かつてないほど忙しなく働いている。数十年前は定時で帰ることで有名だったにも関わらず、現在では第II委員会本部ビルの灯りが消える日は一日たりともない。
 人事にも外交政策重視が現れていると言えるだろう。現在の第II委員会の委員長はラテン市民同盟の重鎮である親加派のジュリア・セベリナ・ウァレンス氏であり、長らく左遷ポストとされてきた国連大使も今では出世ポストとなっている。将来の執政官候補として名前が上がる知路派のアルレット・リーヴス=ルシエンティア氏や、親烈派のシャルロッテ・ベレスフォーディア氏の両名が務める国連大使のポストが、今やセリティヌムの外交への力の入れ具合を象徴している。
 識者の中にはこれを、1040年にサリナトル政権が制定して以降100年間続いてきた孤立主義・非干渉主義政策――通称「サリナトル・ドクトリン」の放棄ではないかと見る者もいるが、ナータリス政権関係者は「現実に即した改善」と主張している。つまり、孤立主義も非干渉主義も積極的に放棄するわけではないが、以前の為政者たちほど無為無策に孤立を貫くこともしない、という立場である。これを「ナータリス・ドクトリン」と呼ぶこともできるだろう。

 ナータリス政権の外交政策は、BCAT圏と芹光対立を抜きにして考えれば、国連の場での協調を重視した関係性作りと見ることもできる。あるいは、拡大を続けるKPO諸国を睨んでの布石と見ることもできる。一方で、ナータリス政権の外交政策には、内政的な意図も含まれていると指摘する識者もいる。
 近年の選挙の結果として、専制的な君主制復活を掲げる帝政派は壊滅したとはいえ、「選挙人民君主制」の導入を掲げる古典復刻同盟の右派と社会革新党の勢いは無視し難いものがある。現在の外交政策は、仮に世論の高まりによって選挙人民君主制が導入されることになったとしても、世論の結果として、セリティヌムがいかなる君主を戴くことになろうとも、極端な拡張政策に向かうことを抑止するため、諸外国との関係による鎖をセリティヌムに課す意図があるのではないか、という見方も成り立つ。ナータリス政権は「選挙人民君主制」の導入に消極的であるが、ナータリス政権を支える一部のラテン市民同盟の政治家たちからも「ラテラノ帝国」の実現を求める声は一定数存在するからだ。
 外交政策は多層的であり、その真の意図を完全に理解することは容易ではないが、事実としてナータリス政権の後継者が誰であろうと、一般理事国の責務を放棄することによる国際的地位の低下や、烈加両国との関係性の悪化を無視してまで拡張主義に走ることは難しくなる。
 また同時に、直近の外交的成功はその支持率を回復させ、政権運営の安定をもたらし、選挙人民君主制の議論に歯止めをかけている。その真の評価は時間をかけて明らかになるだろうが、歴代政権の中でも最も安定し、セリティヌムの外交的地位を向上させた政権としてセリティヌム政治史に名を残す可能性は高い。
 無論、ナータリス政権の終わりとともに――既に凋落しているという主張を無視するとすれば、セリティヌムの凋落がこれから始まる可能性もないわけではない。ナータリス政権の後継者が、遺産がどのように受け継ぐかが問われる。ナータリス政権の遺産をどのように活かすか、それがセリティヌムの未来を決定づける鍵となるだろう。

 我々メディアや識者は、セリティヌムの行く末を厳しく監視し続ける使命を負っているし、確かな情報を提供していくことが求められている。ナータリス政権以後のセリティヌムがどのような道を行くのか、一人の記者である前に、一人の市民として責任を持ち、政治家たちの動きを注視していきたい。

(文責:マルクス・フラウィウス・セネカ / アクタ・ディウルナ政治部記者)

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