【社説】無極化の時代に
850年、FUNの発足をもって、烈天加協調という国際秩序が完成を迎えた。
以後、10世紀初頭の天人大規模宇宙移住、10世紀末の同盟理事国交替、11世紀半ばのベルクマリ圏同盟理事国入りといった変動はあったものの、大枠として、烈天加の存在感という前提がフリューゲルにおいて共有されていたことは疑いようもない。
しかし、今となっては時代は変わった。
もはやヘルトジブリールは主要国どころか国家としての体をなしていない。その国土では、今やかつての卓越した工業力の面影を残す高度な生産プラントが、ルーチン的に稼働を継続しているだけである。
かつて人口1億7000万を数えたレゴリスもまた、今では見る影もなく、レゴリスの旗のもとにある人民の数は7500万に過ぎず、愚かなゲルマン主義者の廓清を終えた今となっても、国内は退嬰的な孤立主義と反動的な大国主義への分裂を深めるばかりである。
カルセドニーはもはやフリューゲル唯一の超大国であるが、社会主義評議会政権は優れて安定したその体制の安定そのものにのみ力を注ぎ、外の出来事には関心を持っていない。
ベルクマリ圏は、安定しておりかつ強力であるため、ひとたび挑戦に打って出たならば、今や宙に浮かぶ「覇権」の称号を手にすることも難しくないであろうが、今のところはその意思はないようだ。
四陣営の外の挑戦者ももはや不在である。
かつてその外交のかまびすしさで知られたミルズ人も、今や内外どちらにおいても積極的な活動は見られない。
ベルクマリ圏唯一の離脱者であるセリティヌムもまた、国際外交の場でのチャレンジャーとしての存在感を示せてはいないし、特段その足場を築こうという試みも見られていない。
現在のフリューゲルにおいて、現状維持勢力は不在であり、しかしそれを修正する勢力もいない。樹間から外をのぞいてみても、あるのはただ暗闇だけである。
もちろん、これにロムレー人が何かを言う資格はないと言われてしまえば、我々にできる反論は何一つとしてない。1040年をもって安保理からロムレーが去ったのは、ロムレーの微々たる政治力を覇権の安定に蕩尽することの無益さに対して、「我ら人民」が「ルッコラ保護主義」に気付いてしまった、その自覚に由来し、それは、12世紀現在の主要国の立場と何一つ変わることはない。
いみじくも、950年の路別首脳会談でのアンリエット議長の言葉通りである。「無為に時間を空費することは、腐敗とやがて来る衰頽しかもたらさない」。問題は、腐敗と衰頽に取って代わるべき「発酵」も、今やどこにもないということである。
だが、本紙として、これだけは明確に述べておく。今なお、人民派はアンリエット外交は誤謬であったとの立場を変えておらず、また、この方針を転換することはないものと思われるが、ルッコラ主義の時流に流されずにあるべき道を探り続けることをやめてはならない。
【政治】「我ら人民」、次期議長にマクシム・セルヴェ氏を推挙
フィルマン・ルジャンドル議長の在任30年が迫るなか、「我ら人民」1119年度年次総会において次期議長推薦指名選挙が実施された。
ルジャンドル議長は議長就任後に夫人のカリーナ・ディーツゲン女史がレゴリス総統に就任(その後退任し、現在はレゴリス総統代行)したことで知られており、「親烈主義」的な立ち位置が長らく取り沙汰されてきた。議長自身は「我ら人民」内部で次期議長推挙の議題が上がる以前には退任の時期について明確に述べてはこなかったが、人民派内部の突き上げを受け、慣例通り在任30年を超えず退任する方針を決めた模様だ。
今回の議長推薦指名選挙は全体的に決め手のある有力候補を欠く状況ではあったが、最終的にはマクシム・ミシェル・ヴァンサン・セルヴェ氏が僅差で次期議長統一候補として決定することとなった。セルヴェ氏はポワンクール労働取引所を中心に設備技術者として建設業を営む実業家であるが、自らの企業においても労働者所有制を実践するサンディカリストであり、「労働者に権利を―すなわち自治権を与えることこそ、現在のロムレーにおける社会問題への唯一の原因療法である」と主張し、ロムレー経済における労働者協同組合の拡大と振興を主張している。
【経済】鉄鉱脈、隕石被害により壊滅。隕石迎撃態勢、経済的影響の懸念も
1118年4月、連続して落下した隕石によってサン=トゥルミエール近郊に存在するロムレー最大の鉄鉱脈地帯が文字通り消滅する事態が発生した。鉱山は高度に自動化が行われているため、人的被害はほとんどなかったものの、レゴリス経済の混乱により足回りが苦しくなっていた鉄鋼業界においては破滅的な影響となる見通し。
これについて、迎撃衛星運用部隊の総司令官であるレミ・エリク・アデラール・ワロキエ宇宙軍大将は「巨大隕石は適切な運用体制があれば十分な予防が可能であるが、この規模の隕石について完全な迎撃は困難。とはいえ、我々の責務を果たせなかったことは事実であるから、私自身も含めて然るべく処分が実施されることになる」としている。
変わったところでは、人民派内部の零細派閥である「光速派」の主唱者として知られるマガリ・レスタンクール教授は「現実問題として、アルファケンタウリ星系内の小天体の分布と摂動からは、フリューゲルへの隕石衝突は避けられない。ロムレーの技術水準に照らせば、すでに我々はアルファケンタウリ星系到達時の移民船よりも十分に工学的に洗練された恒星船を建造することが可能であり、あとはこれを国家プロジェクトとして推進するだけの状況。人民派の理念から考えても、解決策は一つだと思うがね」と主張しているが、人民派のほとんどからは無視されているとのこと。
(その他ヘッドライン)
【国外】レゴリス帝国は立て直せるか 1118年10月のレゴリス巨大隕石災害被害状況
【国外】ヘルトジブリール、ヴェールヌイほかの支援によって「延命」も復興ほぼ進まず
【社会】労働者協同組合の存在感、急速に拡大 経営の立ち行かなくなったレゴリス資本企業のニッチ埋める
【セビーリャ】長期間放置されていた隕石跡地の復興・小さいながらも独自の軍備など整えたセビーリャ、独立に向けた課題はもはや「なし」との声も
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