1006年3月、オクサーナ=アドバンシエナ中務ソシアート代表は記者会見において、就任当初から示していた国政改革への意欲を「実践へ移す段階が来た」と述べた。アドバンシエナ代表はロシジュアという国家全体を一つのバラに例え、構成要素として花弁(=外交)・葉脈(=民生)・つる(=政府)の三種を挙げると、まず「つる」の改革に関して、ロシジュア国政に新たに導入される諮問AI「ヘスペリデス」の全体像を語った。ヘスペリデスは、党派分裂が進んで機能不全に陥っていた帝国民会(※ロシジュアにおいて三権分立のうち国会を担う組織)に代わる電子諮問機関。帝都ツァリアクラートの地下に設営された巨大サーバーが母体であり、技術ソシアート・高次科学探求島・超越総研などが共同で開発した独自規格を採用している。量子コンピューターによって非常に高度な感情・理性を備えたヘスペリデスであるが、その性格は内蔵された下層ハブ群(ヘスペリス)のバランスによって流動的に変化していくとのこと。各ヘスペリスには帝国民会に所属していた政党の個性が反映されており、ロシジュア国民は自身の信条に合ったヘスペリスに投票し、重みづけを行うことができる。例えば、今まで加速党の候補者に投票していた者は、加速型ヘスペリスに重みづけを行えばよいという。多くの国民によって重みづけされたヘスペリスの性格は、ヘスペリスの集積・統合であるヘスペリデスの性格に、より強く反映される。
アドバンシエナ代表は、ヘスペリデスの運用によって期待できるメリットとして「帝国民ソシアート(※基礎自治体)ごとに帝国民会の構成員を輩出していた従来の制度に比べて、地方が背負う選挙の手間とコストが削減される」「多数の議員を一堂に集めなければ機能しない帝国民会よりも、即応的なアウトプットができる」などの点を挙げた。また、ヴェニス・コンプレックスで運用されている統治AIとは異なり、ヘスペリデスが担うのはあくまでも行政に対する諮問とシンクタンク的な政策提起にとどまるため、サイバー攻撃による暴走のリスクも抑えられているとのことだ。
ヘスペリデスの登場は、帝国民会に所属することで食い扶持を得ていた従来の各党派議員の職を奪う事にもなる。しかし、ある元民会構成員は「分かり合えない幾多の政党同士が生産性のない口論を続けているよりは、何千倍もロシジュアの国富と時間を有意義に使える」と、ヘスペリデスの導入に理解を示した。実際、帝国民会の事実上最後の議決となったヘスペリデス導入決議については、マシナリア塔を筆頭として加速党・色彩党など大多数の政党が賛成に回り、可決されている。少なくとも、三権分立の一角を量子コンピューターが担うという未知の体制について、ロシジュア国内で超越的な期待が寄せられているのは事実のようだ。帝国民会亡き後の各政党は、自派に近い立ち位置のヘスペリスへの投票を促す、民間の政治団体として運営を続けていくという。近日中には各ヘスペリスの重みづけを決める初めての国内投票が実施され、その結果をもとに性格を初期設定されたヘスペリデスが運用開始される見込み。そして、この記者会見では語られなかった「花弁」「葉脈」の改革についても、随時アナウンスしていくとのことだ。