924年1月13日付〈中央通信〉
人民党執行部はイルト・デマントイド中央処理委員長を今年末の大統領選挙の人民党候補として擁立することを決定した。920年末の共和国議会選挙(下院総選挙)で大勝、単独過半数の議席を確保している人民党は行政府も奪還することで共和国の政局の中心を革新党から奪い取りに行くこととなる。
イルト中央処理委員長は中央処理委員会の裁判部門の出身で、「国家が国民を指導する」ことを常々主張している。委員会社会主義の「トップダウン型」経済統制を支持するものの、この背景は多くの社会主義者が主張するような「労働者階級(=人民)による政治の掌握」ではなく、「国家と国家中枢を構成する知識層こそが政治を掌握すべき」とする立場であり、イルト中央処理委員長は委員会社会主義とは似て非なるイデオロギーを掲げている。委員会社会主義が労働者階級の自主的な信託に基づき現在の委員会による経済統制が成り立っていると説くのに対し、イルト中央処理委員長は委員会とその上層部こそが主役であり、国家全体を俯瞰することができない人民に究極的な権限は付与されえないと主張している。
イルト中央処理委員長の立場は「中道派」と呼ばれ、現在の経済統制の維持に社会主義的な人民民主主義を要求しないが、一方で、明確に社会主義体制を否定する右翼とも一線を画している。この立ち位置は近年急速に台頭しており、既存の左派、特にサンディカリスト勢力からは激しい攻撃の対象となっている。労働者の組合による活動が共和国の社会主義の源泉であると考えるサンディカリストは、「中道派」を「右翼」であると糾弾しており、人民民主主義の否定を「パターナリズム的傲慢」と批判する。
人民党の920年下院総選挙での大勝は社会主義を放棄した連合党からのサンディカリスト票の流入にかなり依存していることから、人民党内はイルト中央処理委員長の支持を巡って事実上分裂状態に陥った。人民党内の左派は内務公安委員会のラシア・カーネリアン上院議員を出馬させるべきだと訴えた。ラシア上院議員は人民党の「旧来型」の思想を体現しており、先の内務公安委員会の「反乱」を契機に下院により指名された上院議員であり、内務公安委員会の支持する委員会社会主義を強く支持している。経済政策・外交政策に関してはイルト中央処理委員長とは大差がないものの、イデオロギー的にははるかに「健全」であるとみなされていた。しかし、上院議員からの大統領選出は現憲法下の慣例に反しており、上院がこれを支持する見込みは薄く、一般投票で過半数を取れずに再選を目指すシジト・カーネリアン大統領との上院投票に持ち込まれた場合ほとんど勝ち目がないとみなされたことから最終的には「大統領府の奪還」を最優先する人民党内で候補から取り下げられた。
与党革新党は既にシジト大統領の再選出馬を決定しており、イルト中央処理委員長の大統領選出馬についても「共和国のイデオロギー基盤を破壊しかねない」と早くも批判を展開、選挙戦は事実上スタートしている状況である。
FUN総会、臨時選挙制度廃止か
921年に開幕したFUN総会第8回通常会期において、レゴリス帝国代表は第7回通常会期に共和国が提案し賛成8対反対2(レゴリス・ヘルトジブリール)で可決・成立していた臨時選挙制度に関する決議を廃止することを要求した。同国は第7回通常会期の公式討議終盤からヘルトジブリール代表と共同で臨時選挙制度に反対しており、本会期においてもこれを主張している形だ。
シジト大統領と与党革新党は臨時選挙制度を支持する立場であるが、人民党が支配する下院が政権批判を強めていることで総会の議場において強い立場を打ち出せるには至っていない。モーガン・ウォーレン国連大使は臨時選挙制度が「FUN憲章を改正によらずして事実上修正するものである」、また「安全保障理事会制度の変更には同盟理事国すべての賛成が必要である」というレゴリス代表の主張を批判こそしたものの、臨時選挙制度の廃止に反対するか否かについては言葉を濁した。人民党は加烈関係に緊張を生じさせる原因になることを避けるために臨時選挙制度は廃止すべきだと主張しており、投票期間が大統領選挙後に予定されていることから「賛否は新大統領が決定すべき」という人民党の要求に配慮した形だ。
上院でシジト大統領の指名に協力し、野党ながら人民党より政権に近い立場をとっている連合党は臨時選挙制度の廃止がガトーヴィチの一般理事国地位喪失に結び付きかねないために戦々恐々としている。党内からは「ガトーヴィチがはっきり臨時選挙制度廃止に反対を表明すれば、共和国は同盟国との関係を優先して反対票を投じるべきである」との強気な主張もある一方で、「人民党はもちろん、革新党もここで烈天との関係を損ねる選択肢は取りづらいだろう」との諦念も見受けられる。
レゴリス帝国代表は同時に一般理事国の選出に必要な推薦を現在の5ヶ国から4ヶ国に減少させる憲章改正も提案しており、これが実現すればガトーヴィチ・ローレルが一般理事国の地位を維持することはやや簡単になると見込まれているが、「憲章改正は10ヶ国の批准が必要であり、居住施設軍事演習禁止条約などを見てもこのハードルはかなり高い」とあまりこちらへの期待感は高くない。ただし、ウォーレン国連大使は「憲章改正発効後の臨時選挙制度廃止」を議場で提案しており、国際政治の専門家は「これが受け入れられれば烈天両国(やその同盟国)と共和国や瓦楼の思惑が一致することから改正は早期に発効する」と指摘している。
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