【インタヴュー】レテン大統領に聞くカルセドニー社会主義とFUNの展望
現在のフリューゲル国際社会において最も重要な国家として、カルセドニー社会主義共和国が挙げられることは論を俟たない。
ロムレー人の左派にとってカルセドニーは一つの模範である。一方で、過度な理想視とリアルポリティクスの間にあって、カルセドニーの実像をどれほどのロムレー人が理解しているかとなると、甚だ疑わしい。観光目的でロムレーを訪れる人も多いヘルトジブリールと比べると、「実寸大のカルセドニー」を知る機会は、ロムレー人にとって意外と少ないのが実情ではないだろうか。
今回、先の選挙で再選され、三期目の任期に入ったレテン・ウェストカーネリアン大統領と、カルセドニーの法制度と経済に詳しい経済学者のアンリエット・ドローヌ准教授の対談をセッティングした。以下にその内容を掲載する。
ドローヌ准教授(以下「ドローヌ」)「再選おめでとうございます。今日はよろしくお願いします。」
レテン大統領(以下「大統領」)「よろしくお願いします。」
ドローヌ「さて、今回、三期目の滑り出しを迎えました。大統領としては今期の施政方針はいかがですか。」
大統領「まずは議会選挙です。共和国が選挙からわずか2年で別の選挙を行うのはこれまでに例がなく、また、この選挙の結果で政界の情勢は一変するでしょうから、私の施政方針が十分に発揮されることになるのはその後になるものと思っています。私の目指すところについて語らせていただくとすれば、人民党は対内的には安定的な経済計画の維持継続、対外的には国際関係のFUN安保理を基軸にした安定を訴えており、これについては広い支持を得られると信じていますので、そういうことになるでしょうか。」
ドローヌ「なるほど。外交関係はあとでお聞きするとして、対内的な経済の安定についてですが、カルセドニー経済に関しては、この図のように、いわゆる大国の中では随一のパフォーマンスを示しています。カルセドニーの経済状況について、大統領はどのようにご覧になりますか。」
大統領「共和国は、長い計画経済の歴史の中で、安定の個々の所得水準の向上を目指してきたものでありますので、それが達成されたものと思います。ただ、国際比較という点では、商業国と工業国、その他の経済体制の国といった差異に注目しなければならないと思います。」
ドローヌ「そうですね、このグラフからはその性質が色濃く読み取れます。他の社会主義国とのパフォーマンスの違い等についてはいかがでしょうか。」
大統領「私は中央処理委員として、長年国内の経済体制の維持管理を行ってきましたが、おそらく共和国ほどに経済の管理に成功している国家は少ないのではないかと思っています。その差がここに示されているのではないか、と思いますね。」
ドローヌ「なるほど。カルセドニー革命は、サンディカリスムを掲げて起こりました。しかし現在のカルセドニー社会主義はサンディカリスムの方針を明確にはしておりません。大統領は現在のカルセドニー社会主義の特徴をどのようなものと捉えていらっしゃいますか。」
大統領「述べてきた通り、経済体制の管理が行き届いていることが、共和国の社会主義の特徴であると言っていいかと思います。新憲法で明確化された「委員会社会主義」は、大統領を頂点に各委員会に対して統制が行き届くことを主旨にしておりますが、この体制は共和国独自のものであり、803年憲法とその改正である862年憲法の欠点を解消したものであると確信しております。共和国の国民は国民である前に労働者であり、国家は労働者が持つ権利を確実にするため、労働者組織を基盤に構成されなければならない、という信念はサンディカリスムと共有していると言えますが、経済全体を見渡すことができる立場から、経済政策を実施することが不可欠という点ではアナキズム的なサンディカリスムとは相違すると言えるでしょう。」
ドローヌ「なるほど。そのような体制の安定は、国際外交におけるカルセドニーの地位の強さの理由でもあるといえそうです。先ほど後回しにした国際的な組織にも目を向けましょう。FUNの役割は、先の大統領選挙でも論点の一つであったと伺っております。軍事演習禁止条約の発効が進まない等、現在のFUNは多くの課題を抱えていますが、どのようにお考えでしょうか。」
大統領「これまでのFUN体制に対する我々の取り組みの問題点は、総会の立法組織としての役割に過剰な期待を抱いてきたことではないでしょうか。近年の総会では我が国が提出した議案がほとんど議論されることもなく全会一致で採択されるというケースが相次いできました。このような状況で総会に期待するよりは、決議がその瞬間から国際法上の効力を有する安保理決議によって、国際立法を進めることが有意義だと考えています。例示いただいた軍事演習禁止条約についても、安全保障理事会の議場でその重要性を強調するとともに第1条に定められた義務の履行を各加盟国に要求する決議案を提出しようと考えております。」
ドローヌ「なるほど。そのような国際社会におけるアクターについてですが、現在の国際社会には絶対君主政や警察国家体制、軍事政権などの国家も存在しています。多くの場合、内政不干渉の原則によってこれらの政府も積極的な干渉を受けることは少ないですが、時として内紛や対外問題等を引き起こし、国際的な対処を求められる事態を招来することも見受けられます。大統領はこのような問題についてどう見ていらっしゃいますか。」
大統領「先の北海地域におけるクーデターがまさにそのような事態になったと思いますが、このような件が問題になるのはそれが「国際社会の安定を揺るがす」事態であるからであると考えています。北海事変では議場でのガトーヴィチとヘルトジブリールの対立が著しく、我が国は両国の友好国として妥協案としての決議案を提出することにりました。ガトーヴィチでの内戦は主要国が民主帝国支持で一致したために「危機」にはなりませんでしたが、北海事変はそういう意味で「危機的」だったと考えています。したがって、私は何が国際社会にとって「危機」であるかは、それが主要国の対立を呼ぶか否かで判断されるべきだと思います。」
ドローヌ「ありがとうございます。このインタヴューはトリビューン紙国際版にも掲載される予定です。最後に、フリューゲルの皆さんにメッセージ等ございましたら。」
大統領「私は、実のところ、主要先進国同士の関係はカルセドニーがフリューゲルに生を受けてから最も良好だと考えています。それこそが、フリューゲル国際連合の最大の成果であり、これからも守っていくべきものだと私は思います。そういえば、私は先進国という言葉を必ずしも経済指標を基準に使っているわけではありませんし、ロムレーは先進国だと思っておりますので、その点については誤解なきようよろしくお願いします。ありがとうございました。」
ドローヌ「ありがとうございました。」
文責・インタヴュアー:アンリエット・カロル・ドローヌ=ルシエンテス。アンゼロット記念大学数理科学研究所統計科学部門計量経済学講座准教授。同研究所「国民所得の国際比較プロジェクト」PI。博士(経済学)。主著『制度と豊かさの経済学』。