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Des Reichs Traum Folge 1

「……提督………起きて下さい提督!」
「むにゃむにゃ………」
 遠くから何か怒鳴り声が聞こえる。まぁ多分気のせいだろう。そう思いつつまた微睡みの夢に戻ろうとした矢先、私の頭に激痛が走る。
 痛みに耐えきれず目が醒めた私は”激痛”の原因に恨み節を吐く。
「もう………起こすのならもっと優しくして頂戴」
「貴方が何度起こそうとしても起きないのが原因です。反省して下さい反省!」
「わかった………わかったからけたたましい声で怒らないで。ディーツゲン参謀長」
「今日という今日は許しませんよ!………と言いたいところですが、今回は急ぎの用事ですから説教は後回しです」
「………?」
 ぽかんとしている私に参謀長──アンネ・ディーツゲン海軍大将は大きなため息をついた後こう言った。
「総統閣下を始めとした各国要人がミュンスターに集まったんですよ!予定時刻通りにです!」
 暫く呆けていた私は着けていた腕時計に目をやる。その時間はミュンスターへの集合時刻から30分程遅いものであった。
 一瞬で顔面蒼白になる私。
「やらかした事がわかりましたか?さぁ早く支度をして下さい!フライトデッキにヘリを待機させてますからそれに乗りますよ!」
 そう言われた私──帝国海軍第3艦隊司令官足柄梨沙海軍上級大将は急いで身支度を済ませ、参謀長に手を引かれながらフライトデッキへと急ぐ。
 フライトデッキへと登った私を迎えたのは──青色の空と灼熱とは言わないにせよ熱を持った甲板──そしてけたたましいエンジン音を響かせるLe-31Rだった。

Des Reichs Traum

Folge 1  寝坊提督の足柄梨沙

「おう。寝坊助がようやく来たのじゃ」
 ミュンスターに降り立ってから掛けられた第一声は帝国海軍海兵隊司令官兼第7艦隊司令官アーデルハイト・グレーニング陸軍・海軍元帥のものだった。
「45分の遅刻じゃこのド阿呆!」
 そう言いながら彼女は手に持っていた元帥杖で私の頭を軽く叩いた上、大きく背伸びをして私の頬をつねる。
「いひゃいれすクレーニンクせんしぇい」
「全く………お前は相変わらずじゃな。足柄よ」
 手を頬から離した彼女は大きくため息をつく。
「総統閣下らを始めとした各国要人はもう会談を始めておるよ。会談には我々軍人は不要なのじゃからな。」
「そうですか………あれ、私って要ります?」
「戯けが!会談の前に各国要人に各艦隊司令官が挨拶すると決めていたのを忘れたか!」
「………あー、今思い出しました」
「はぁ…………本当に戦以外のことは本当ダメダメじゃなお主は。」
 それに対して恐縮ですと私が言い、グレーニング先生がこの戯けと頭を元帥杖で叩く。最早形式美を化したそのやり取りをしつつ歩を進める。

「おっ。お寝坊さんの登場だ!」
 そう声を発したのはクリストフ・バラデュール海軍大将。ロムレー湖畔共和国海軍第2艦隊司令官を勤めているイケメンの外見をしたおっさんだ。
「………これで4回目の遅刻。やっぱり足柄上級大将は寝坊助。」
 そう小さい声で呟く彼女はエルザ・グートシュタイン海軍大将。ヘルトジブリール社会主義共和国海軍第4艦隊司令官を勤める背が低い儚げな少女である。
「私は遅刻魔でも寝坊助でも無い!ただ一旦寝ると目が覚めにくくなるだけよ!」
「それが寝坊助なのでは?」
 エルザの指摘にぐうの音も出なくなった私はこう開き直った。
「ぐぬぬ………はいはいそーですよ私は寝坊助よ!!」
そう自棄になった直後「うるさいこの戯けが!」とグレーニング先生に元帥杖で頭を叩かれる。
 騒ぎに気づいた会談中であった各国の首脳は軍人らが集まる天幕に視線を向ける。

 一瞬にして静寂に包まれる会談会場。
 それを破ったのはヘルトジブリール社会主義共和国国家評議会議長たるアイズナー・エアストフルト閣下だった。
「………ヘンネフェルト閣下は面白い部下をお持ちのようですね。」
「………ええ。お陰様で。でも彼女、いざ戦になると人が変わったようになりますよ。正に狼みたいに。」
 そう返したのはレゴリス帝国総統レオノーラ・ヘンネフェルト閣下。
「まぁ怖い。グートシュタイン大将、彼女の前で寝ないようにね。赤ずきんのように悪い狼に食べられてしまいますから。」
 エアストフルト閣下がジョークを放つと静まり返った会場はドッと笑い声に包まれた。
 恥ずかしさのあまり赤面する私とグートシュタイン大将。
「ハハハ………さて、話を元に戻しましょうか。イスタシアに対する要求についてですが──」
 話を元に戻してくれたヘンネフェルト閣下と助け舟を出してくれたエアストフルト閣下に心の中で土下座した。

 会談が終わり、共同非難声明が発出された後、私は寝坊して出来なかった各国要人との挨拶周りを行った。
 まずガトーヴィチ民主帝国外政大臣のエフゲニー=ヴィクトロヴィチ=クルブニーキン閣下に挨拶したら、
「中々美しいお方ですな。貴国の外相閣下とは大違いだ」と言い出したので「あら閣下。私もバルシュミーデ外相閣下と同じ年増ですわ。因みにヘンネフェルト総統閣下はそれ以上の………ですよ」と言い返した。
 クルブニーキン閣下は暫し固まった後挨拶も程々に立ち去ったけど、去り際に仰られた「………レゴリスの女性に外見相応の年齢の方はいないのだろうか…」という独り言を聞き逃さなかったのは言うまでもない。

 次にロムレー湖畔共和国外交局長のジョスラン・アンベール・クレペル閣下にお会いした。
 クレペル閣下とはロムレー湖畔共和国に長期駐留していた際に出会って以来の顔馴染みであったが、ここ数年会えてなかったから久し振りの再会となった。
 互いの近況を話した後、彼はこう言い放った。
「実は今度結婚するんだ。相手はレゴリス人の娘なんだがね────」
 彼が結婚すると聞いて正直驚いた。独り身のほうが良いというのが口癖のあの彼が結婚するとは。
「ところで君はいい相手はいないのかい?もういい歳だろうに。なんなら紹k」
「余計なお世話よクレペル。私の相手は私が探すわ。」
「そう言って何年経った?いや十何年の間違いだっtふごっくひをふしゃぐのはやめお!」
「余計なことを言う口は塞いでやるわ!」
 そのうち口を塞がれつつ降参だと言った彼は私から解放される。
 この流れ、ロムレー駐留の時を思い出して懐かしいわ。

 そして最後にヘンネフェルト閣下とエアストフルト閣下にお会いした。
 グレーニング先生より背が小さいエアストフルト閣下と握手するために私は少し屈んだ。そうしたら閣下が
「おめー私の事背が低いおチビちゃんだと思ったですか!」と突然言い始めた。
 会談中の冷静な閣下と180度違う閣下に戸惑ってる私を他所に閣下はまくし立て続ける。
「確かに私は背も小さいし胸も小さいけど成長期なの!子供じゃないのですよ!」
「そんな事をいう方が子供と言われるのですよ。エアストフルト閣下」
 そう助け舟を出してくれたのはヘンネフェルト閣下。
 ヘンネフェルト閣下は色々と言い続けるエアストフルト閣下をまさかの抱きかかえた上頭を撫で始めた。
「はぁ………とてもいい気持ち………」と呟きながらヘンネフェルト閣下は上機嫌。
 ヘンネフェルト閣下にされるがままのエアストフルト閣下は静かになり気持ちよさそうに顔をとろけさせた。
「これはハールトーク賞ものだぜ!」と各国の報道カメラマンがシャッターを切り出したのは言うまでもない。

 挨拶を終え、各国要人の退艦を見送り、自らの乗艦たる空母アーダルベルト・マルシャルに戻った私は、帯同したディーツゲン参謀長共々キャットウォークの一端に佇む。
「足柄提督………」
 口火を切ったのはディーツゲン参謀長だった。
「何かしら?」
「今回の非難声明に、正義があるとお思いですか…?」
「………というと?」
「今回の声明文、誰がどう見ても内政干渉だとはっきり言える代物です。幾ら相手がイスタシアと言えどこの仕打ちは無いのでは……他の国家が黙っているようにも思えませんが」
「なるほどね………確かに私もこの声明は内政干渉の代物にしか思えないわ。でもね…我が国は元よりヘルトジブリール、ロムレー、そしてガトーヴィチまでもが本声明に参加している。この陣容では他の先進国も手出しは出来ない」
「ですが………それではあまりにもイスタシアが不憫です」
「貴方は優しいのね。ディーツゲン参謀長。そんな貴方に一つ良いことを教えてあげるわ」
 そう言われた彼女は訝しがりつつそれは何か問う。
 その問いに私はこう答える
「正義というのはね、常に勝者の側につくものよ。敗者には存在しないわ。イスタシアはあの声明を出された時点で負けたのよ。よって正義は我々にある」
「………それは詭弁では?」
「だが事実よ。恐らく彼の国に助け舟を出す国なんて殆ど居やしないわ。彼の国が持つ業は中々深いのだから」
「………しかし」
 尚食い下がろうとする彼女に対してクドいと切り捨てた私は、そろそろ夕食の時間だから士官食堂に行くと告げその場を立ち去る。
 少し煮え切らない感じの彼女は納得がいかないという表情をしつつ私の後ろをついてくる。
 そう。今回の非難声明には正義なんて無い。あるのは先進国兼列強によるイスタシア市場に対する黒い欲望だけだ。私とてそれは承知している。
 だが私も彼女も、総司令官たる総統に命令されたならばその命令に忠実であらねばならない、軍人という哀れな哀れなゲームの駒の一つに過ぎないのだから。

あとがき

 久し振りにSSを書き終えました。レゴリスの中の人です。多分2年半前に世界に冠たる我がレゴリスを出したのが最後でしょうか。それ以降も何度か挑戦したのですが、中々オチまで書けない病に陥ってました。今回はすらすらと書けたのでとても良かったです(多分一人称のSSの方が自分的に書きやすいようです)

 今後もSSは暇で尚且ネタが降ってきたら書いていく所存ですので、どうかよろしくお願いします。

 最後に自国のキャラクターを当SSに出すのを快く承諾して下さったヘルトジブリールさん、ロムレーさん、ガトーヴィチさん、そしてネタが降ってくる機会を作って下さったイスタシアさんにお礼を述べて終わろうと思います。ありがとうございました。

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